From this day

□クロロの焦燥
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「ねえ、クロロ」
「今忙しい」
「……まだ何も言ってませんけど」
「お前がそう切り出す時は大抵長くなる。読書中だ、後にしろ」
 その日は思いの外ピシャリと言い切られてしまった。いつもなら文句を言いつつも話を聞いてくれるから、余程今は集中したいのだろう。どうせただの雑談だし、まあしょうがないかと立ち上がろうとしたところで、突然手首を掴まれて振り返る。
「何?」
「いや……」
 思い切り目が合い戸惑った。想像以上にクロロが真っ直ぐと私を見つめていたから。
「本……読むんじゃないの?」
「……怒ったのか?」
「え? 怒ってないけど、何で?」
「出て行こうとしただろ今」
「した、けど……」
「待てよ、もう少しで終わるから」
「う、ん……?」
「ここにいろ」
 言われるがままベッドに座りクロロの隣にくっついた。珍しく嫌がらないので、試しに腕を組んだら振り解かれもしない。不思議に思いつつも、伝わる体温と匂いにたまらなくなってそのまま顔を埋めていたら涙が込み上げてきた。どうして私はこんなにもこの男性が好きなのだろうか。
 気付けばうとうとと夢見心地のまま、唇に柔らかい感触がして目を覚ます。僅か数センチ手前にはクロロの端正な顔立ちがあった。
「……どうして?」
「どうして、とは?」
「今……私にキスしなかった……?」
「それがどうした。今更だろう?」
 クロロは何もわかっていないのか。これが普段ならば頷ける。あなたは感情なく女性を抱ける人だから、口付けなど温いくらいだろう。
 けれど、今私は眠っていた。眠っている相手に行う唇への触れ合いなど、好意以外に理由があるのだろうか。
「……クロロ……好きだよ」
「知ってる」
 しかし、残念ながら「オレも」とは続かなかった。今なら聞けるかもしれないと期待したのだけれど。
「で、オレに話とは?」
「……忘れちゃった」
「何だそれは」
「でも、せっかくだからぎゅってしていい?」
「今まで散々していただろう」
「違う、前から」
「……それはオレに抱きしめろと?」
「お願いします」
「見返りがなければ聞けないな」
「手作りプリンパフェでいかがでしょう」
「よし、来い」
 両腕を広げるクロロの胸に思い切り抱きついて、キツく背中に腕を回した。
 ああ、本当にクロロが私を好きになってくれたらいいのに。そうしたら、どんなにその手が汚れていようと私は喜んで全てのものを捨てられるのに。
「……ねえ、好き」
「知ってる」
「たまには違うこと言ってみたら」
「へえ、例えば?」
「オレもだよ、とか」
「オレもだよ」
「ちょっと!」
「お前が望んだんだろう」
 確かにそうなんだけれども。ぐりぐりと胸元に顔を埋め、大きな大きな溜め息を吐き出した。
「……クロロからの愛が欲しい」
「贅沢なやつ。こんなにも与えてやっているのに」
「これで?」
「そう、これで」
「これはプリンパフェの為でしょ」
「……ああ、そうだったな」
 クロロが恋しすぎて開花した私の能力は、今日も彼と離れる為の強化を続ける。
 本気で、連れて行ってとお願いしたらクロロは私をどうするだろうか。私の価値など、ここにいる間だけのもの。解っているのに、どうしても焦がれてしまうのだ。
 どうかお願い、私を好きになってクロロ。何だってするから。してみせるから。
「突然大人しくなったな」
 せがむように顔を近付けキスをする私に、クロロは何も言わない。この奇跡だけでじゅうぶんなはずなのに、どうしようクロロ。好きすぎて本当に苦しい。
「抱いてやろうか?」
「愛があるならぜひ」
「……やめておく」
 いつか、いつか変わればいい。
 私が四次元能力を修得するより早く、どうかクロロの心に灯を。







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