From this day

□クロロと一緒に夏遊び
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 今日は朝から一段と暑かった。午前八時の時点で既に三十度は超えていた。あまりにも暑すぎて修業にも身が入らず練も乱れっぱなしだ。
「オイ、真面目にやれ」
「クロロはいいよね。扇風機独占してるんだもん」
 見れば、大層涼しそうな顔して本を読むクロロの姿がベッド上にある。風でページが捲れてしまわないよう押さえながら、艶やかな黒髪が穏やかに揺れている。私はこんなにも流れる汗で気持ち悪い思いをしているというのに。
「そんなに暑いのか?」
「あっついね」
「海でも行くか?」
「ええ⁉」
 あまりにもびっくりしすぎて留めていたオーラが四散した。窓がガタガタと揺れ、クロロは怪訝そうに顔を上げる。
「なんだ、その声は」
「いや、だって……クロロからそんなアウトドア発言が飛び出すとは……」
「お前、オレを何だと……」
 タオルで身体中を拭き、暑い暑いと扇風機を奪い取る。今の私にとっては生温い風すら気持ちの良い冷風なのだ。
「気晴らしに連れていってやる」
「どうしたのクロロ。さっきのプリン腐ってた?」
「……お前は大概にしておけよ」
 クロロの為に用意したアイスコーヒーの氷を一つだけ貰い、口の中で転がしていく。ようやく生き返った気がして扇風機の風向きを再びクロロへと向ければ、押さえていないページがパラパラと捲れ彼は苦笑しながら本を閉じた。
「このままでは集中できないだろう」
「まあそうなんだけど……ならせめて浴槽に水を張るとか……」
 ガリッと氷を噛み砕き、冷たい水が胃に落ちていくのがわかった。
 再び修業を行う為、深く深く呼吸を繰り返す自分の身が徐々に落ち着きを取り戻していくのがわかった。また纏からやり直しだが、この暑さの中で持続は可能なのだろうか。
「水風呂というわけだな、いい案だ。一緒に入ってやる」
「はあ⁉」
 結局は無理だった。その上、原因は暑さではなくクロロのせいだ。あまりにも破壊力がありすぎるその台詞に、一瞬にして汗が滲んだ。
「冗談、は、やめて、よね……」
「冗談? オレが冗談を言うように見えるか?」
「絶対入りませんけど」
「まあ、そう言うな。当時と今では決定的に違うことがあるんだ」
 立ったままでいる私の後方に身を置き、様子をうかがうようにわざと耳元で話すクロロ。ぞくぞくと全身が痺れ、暑さでほてる身体が言うことを聞いてくれない。
「な、んの、こと……?」
「セックスだよ。互いに見慣れたものだろう? 違うか?」
 暑くて熱くてクラクラする。そんな恥ずかしいこと絶対にしたくなんてないのにどうして。
「どうして……」
 私は、浴室で水を貯めているのだろうか。浴槽のふちに頭を乗せ、うなだれながらただひたすらこのまま水が貯まらなければいいのにと願った。いっそ、栓でも抜いてしまおうか。






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