From this day

□クロロの帰還もあと少し
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「クロロの夢見た……」
「どうした、突然」
 もうすぐクロロとの別れがやってくるからだろうか。それは、淋しくて不安で仕方がない私に時折神様がくれるご褒美だと、以前までの私ならそう思っていた。逢えるはずのない人。触れられるはずのない人。夢だけでも逢いたいなんて、当時はそんな些細な奇跡にしか縋れなかった私の隣には、今もこうして最愛の人がいる。
「なんか……久しぶりでびっくりした……。クロロが来てからは……なかった……から……」
「へえ、内容は?」
 私より先に起きて本を読むクロロの目線は、未だ文字を追ったままだ。問われ、思わず耳まで赤くする私に怪訝そうな面持ちで顔を上げるクロロは何を思ったのか。音もなく本を閉じ、スッと私の頬に触れた。
「前から聞こうと思っていたんだが」
「な、んでしょう……」
 夢でされたキスが甦り、彼の顔が見られない。だって、こんな日は、今までなら、私は、
「どんな感じなんだ?」
 何がとは問われなかった。それはきっと日々紡ぐ、あまりにも一方的すぎるクロロへの想い。膝に肘を置き、頬杖をつきながら私を覗き込むその口元は笑っている。
「淋しいけど……我慢するだけだよ」
「本当に?」
 反応をうかがっているのか、長い指先が髪に触れ耳に掛けられる。クロロが放つ質問の意図がわからなかった。
「何が言いたいの?」
「もしオレがいなければ、今何をしていた?」
 クロロの目には一体どのような表情をした自分が映っているのだろうか。一度口を開きかけては閉ざし、逃げるようにして視線を避けた。
「言えよ。今更だろ」
 顎を掴まれ無理矢理上を向かされた時、過去の行いが脳裏をよぎり目頭が熱くなる。だってそんな、誰だって好きな人を想い一人でするくらい普通のことでしょう?
「……女が、自慰をしちゃいけない決まりでもある?」
「フッ、ないな」
「なんで、そんなこと聞くの?」
 クロロの親指が私の唇をなぞった。黙したまま何度も何度も、ゆっくりと確かめるように。
「そうだね、クロロの言うとおりしてたよきっと。だって淋しいんだもんしょうがないでしょ」
「怒るなよ。言わせたかっただけだ」
「クロロはそうやって簡単に言うけど、私が一体どんな気持ちで……っ」
 ずっとあなたを愛していたと思っているのか。もう言葉にできなくて、それ以上声に出したら泣いてしまいそうだった。
「馬鹿なやつ」
 くっつけられた額の先でクロロは目を伏せ笑っていた。そうだねとしか言えない私に口付け、その手は背中に回される。外される下着に拒む理由などありはしない。
「どうするんだ、オレが帰ったら」
「前の生活に……戻るだけだよ」
 だって今はもう知っているから。あなたがどんなふうに私を抱くのか。イク時の掠れた声も私の名を呼ぶ甘いあの囁きも、全て。だから大丈夫。きっと生きていけるからお願いクロロ。そんな顔しないで。
「クロロ……好きだよ……」
「知ってる」
「本当に……大好き……」
 こうして私は今日も、クロロの姿を、熱情を、この身にしっかり焼き付けるのだ。別れの日の、その瞬間まで。
「今日は、お前の望む通りに抱いてやろう」
「本当? 一日中でも?」
「フッ、壊されたいのか?」
 もうすぐ彼は、いなくなる。




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