From this day

□クロロとのバレンタインデー
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 正直去年はクロロと出逢ったばかりで、いまいち距離感が掴めず渡すことは叶わなかった。それでも勿論毎年恒例のことなので作らないという選択肢など始めからない。大好きな人を思い浮かべながらのチョコレート作りはなんて愛おしい大切な時間なのだろうか。すぐ上の部屋に本人がいるというのに、丁寧に作って、ばっちりラッピングをして、クロロへのメッセージを書き、そして自分で黙々と食べる。例年通りの馬鹿らしいループに冷ややかな家族の視線も慣れたものである。
 では今年はというとどうだろう。さすがに出逢って一年以上が経てばお互いのいいところも悪いところも大抵は把握済みだろう。つまり絶好のバレンタイン日和というわけだ。
 しかし一ヶ月前から嬉しさに浮き足立っていた私も、つい先日持ち上がった深刻な現実にそれどころではなくなった。クロロが二次元を渡りその原因が私にあると判明したのだ。今は泣く泣く基礎能力の向上に重点を置き、そんなバタバタした最中での本日二月十四日バレンタインデー。本来ならばチョコレートなど作っている場合ではないのかもしれない。
 けれど、一度でいいから渡したかった。毎年毎年、存在もしない相手に作り続けて何度一人で泣いてきたことか。でも今年は違う。あげる相手がいる。まだ居てくれている。叶わない夢などきっとないのだ。
 鼻歌交じりに取り掛かり、それから半日。
「…………」
 失敗したチョコレートの山を前に、私は蹲っていた。
 なぜ、なぜ今年に限って失敗してしまうのだ。意識せずにいたはずの手はいつの間にか震え、そうかこれが世の女の子たちが体験するというリアルなバレンタインデーなのだなと身をもって知った。相手がいるとこんなにも緊張し不安になってしまうのだ。キッチンの使用も零時を回り、ついにタイムオーバーである。今日という日が終わってしまった。できあがったものは全て冷蔵庫に押し込み私は泣きたくなるのを必死に堪え自室へと向かった。
 扉を開ければ、いつものように読書をしているクロロの姿が目に入る。全てを打ち明けてしまいたくなるも情けなさすぎてこんなこと言えるはずもない。クロロはきっと知る由もないだろう。二月十四日にどれほどの意味合いが込められているかなど。ああ、もうすぐクロロはいなくなるのに。絶対今年が最後のチャンスなのに。私はなんて愚かなのだろう。誰よりも愛しいあなたに一度でいいから渡してみたかった。


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