From this day

□クロロとプリンと暑い夏
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「美味しい?」
「まずかったら食わない」
「無理しちゃって」
「何だって?」
 ベッドに肘を付き可愛らしいその姿をうっとりと見上げていれば、唐突に腕を掴まれ軽々と引き上げられる。一瞬で反転した視界は、私が壁を背に位置が入れ代わっていた。
「お前、今日はやけにオレを挑発するんだな」
「は⁉」
 両腕に挟まれ、細められたその漆黒から視界を奪われる。撫でるようにして触れられた頬が熱で痛み僅かに震えた。彼の薄い唇が接触し、驚きで身体を強張らせたその拍子に彼が私に与えようとしていたらしいプリンがクロロの舌先を避け胸元に零れ落ちる。初めてのキスにただ呆然としている私の唇をクロロは小さく舐めとっていく。
「くく、誘われているとは知らなかった」
「っ……何、言って……」
 乳房の中心を伝い、ゆっくりと確実に降下していくやわらかなプリン。それを追うようにして這わせられたその舌に身体の中心は痺れ大きく喉が上下した。
「欲情してるのか?」
「っ、違……」
「甘いな」
 至近距離で感じる彼の吐息は、プリンを与えるわけでもなくただゆっくりとお互いを重ね合わせていく。
 喜びよりも絶望が勝ってしまうのは仕方がない。だって、好きでもない女にこんなことができるほどクロロにとってキスなど何でもないことだろうから。相手が誰であろうとも、きっとクロロは同じことをする。つらくて悲しくて淋しくて、でもそんな男性に心から惚れたのは私自身だった。

 *

「なあ、これは?」
「何?」
 ぬるくなってしまったプリンをようやくクロロが食べ終えた頃、後片付けを始める私を引き止めた彼は容器の底にある小さな突起物に気付きコツンと指を当てた。ああ、それ。と意味を説明した私に突如顔色を変え、何事かと驚くこちらの戸惑いなど気にもとめずになぜか怒りまで滲ませ始めるクロロ。意外と喜怒哀楽がはっきりしている人なのだなと的外れな感想が浮かんだ。
「なぜ先に言わなかった」
 言ってどうにかなったのか。まさか、したかったとでも言うのか。
「え、っと……すみま、せん……?」
 意味のわからない謝罪を述べ、色々と出かかった言葉を全て喉元で飲み込んだ。いじけたように膨れたクロロの端正な横顔に唖然とし、そして次第に増す愛おしさ。これが、本当にあの残虐非道な団長だと読者の誰が信じるだろうか。
「また買ってくるから」
 伏せられた睫の長さに、うっとりと彼を見上げた。ずっとこんな生活が続けばいい。そう、切に願いながら。
「今すぐ行け」
 ……願いながら。





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