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□デットエンドの冒険
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海軍本部所属の〈アレクサンドラ号〉は、一斉砲撃の瞬間まったく予期しない横波と突風に襲われた。
あおりを食って──
大きく狙いをはずした砲弾が目標の海賊船のまわりに、ばらばらに着弾して水柱を上げたのが見えた。
甲板にいた兵士たちが風に、波にさらわれて海に引きずり込まれた。
嵐の海に。
「ロイヤルを絞れ!」
「早く!
ライフラインを張れ!」
「ミズンマストのヤードを引き込めろ!」
兵士たちは声を上げて、慌ただしく甲板を駆けまわった。
マストの一番上の帆を絞る。
死の波が叩きつける甲板には命綱のロープが張られる。
後部マストの帆桁を操って船の動揺を抑えようとするが、暴風雨の中では、それもままならない。
「おのれ………!」
甲板を行き交う兵士たちにもまれながら、髭面の艦長ドレイク少佐は吐き捨てた。
帆にはカモメの旗印。
そこに『MARINE』の文字が 標されている。
砲列甲板に数十門の砲を備えたガレオン船だ。
かたや敵は、商船に毛が生えたような中型キャラベル。
火力では、こちらが圧倒的優位にある。
「先ほどまでの雲一つない天気は、何だったんだ!」
こちらは海軍。
あちらは海賊。
そして、これは海戦だ。
ゆるがぬ“正義”と果てなき“自由”の折り目を求めて、人は武器を取り、命をかける──
「仕方ありません
これが偉大なる航路の気まぐれです」
「そんな事は分かっている!
船を安定させろ!
マストを破損させる気か!」
「は、はい!」
「サイクロンを警戒しろ!
嵐の中心が近いはずだ!
あれは突発的に来る──生きた怪物だ!」
「前後、両舷に見張りを配置しました!」
「あの海賊船はどうなった?」
「十一時の方向──距離、八百です」
「旗印は?
確認できたか」
「それが──
ドクロマークに、麦わら帽子が描かれています!」
「なにぃ?」
ドレイク少佐は声を裏返した。
帽子を目深にかぶって雨が目に入るのを避けながら、ずぶ濡れの外套を引きずって、急ぎ足で船首にむかった。
「麦わら帽子だと………くそっ!
ならばなおの事、ここで捕らえておかねば!」
「あのちっぽけな船で、この嵐の中をみごとに──
よほど優れた航海士が乗っているのでしょうか」
「海賊に──感心してる暇があるか、バカ者!」
「はい!
申し訳ありません!」
「あれが近ごろ海軍本部でも議題に上がった〈麦わら海賊団〉
モンキー・D・ルフィ、そして魔法使いバルフレット・フロルとその一味か!
この、いまいましい大海賊時代に、またとんでもない連中が名乗りを上げたものだ………!」
空と海を混ぜ合わせる灰色の波のなかに、海賊船の影が小さく垣間見えた。
アレクサンドラ号が嵐の対処に追われている間に、目標は確実に遠ざかりつつあった。
「艦長!
本部よりコールです」
その時、船室から通信兵が声を上げた。
「呼び出しだと?
こんなときに──」
「緊急回線です!
三番の電伝虫に繋がっています!」
ドレイク少佐は船内の通信室にかけ戻ると、電伝虫と繋がった受話器を手にした。
「──なんですと?」
『いま伝えた通りだ
貴艦のいる海域に、海賊どもが集結しているとの情報がある』
電伝虫の電波のむこうにいる、海軍本部の上官は言った。
「この海域に……?
いったいなぜ?」
『おそらく──
また、あのバカ騒ぎだ』
「………!
以前にもあった“裏レース”ですか?
それでか──
今、海賊船を一隻追跡中です」
『やっかいな名前もあがっている』
「やっかいとは?」
『ガスパーデだ』
その名を聞いてドレイク少佐の顔がゆがんだ。
「あの裏切り者が………!」
『我々海軍にとって、ぬぐい去らねばならない大きな汚点だ
これ以上、奴をのさばらしておく訳にはいかない』
──“絶対的正義”の名のもとに
妥協なき厳しい口調で、姿の見えない上官はドレイク少佐に命じた。
このは偉大なる航路──
夢と死が、嵐の波濤に浮かんでは消える、大海賊時代の冒険の海だ。
富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男
海賊王ゴールド・ロジャー
彼が死にぎわに放った一言は、人々を海へかり立てた
──俺の財宝か?
欲しけりゃくれてやる……探せ
この世のすべてを、そこに置いてきた
ゴールド・ロジャーが遺したひとつなぎの大秘宝をめぐって、海賊たちは偉大なる航路に夢を追い続ける。
世はまさに、大海賊時代──