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□FILM STRONG WORLD
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サウザンドサニー号は薄明の空を行く。
帆ではなく、海賊旗で作ったパラシュートを広げていた。
フランキーがシキの王宮に掲げられていた巨人旗を奪って、即席でこしらえたものだ。
局地的な暴風雨をもたらす偉大なる航路のサイクロンをやりすごして、船はゆっくりと下降していく。
甲板に集まったフロルたちは、空中群島を振り返った。
目の前でおきている天変地異は、一つの世界の終わりは、あまりにもスケールが大きすぎた。
サイクロンは空中群島を呑みこむと、さらに天へむかって雲の腕を広げはじめた。
淡い朝焼け空を背景に、暗色の雲がふくらんでいく。
幻想的な光景の中で船べりにはりついて目をこらしていた仲間たちは、その時たしかに声を聞いた。
───ぉおおお………!
この声は
フロル「ルフィ………?」
その時、雲を破って翼が飛び出した。
ビリーだ。
その背中には、彼らの船長を乗せていた。
フランキー「いよっしゃぁ〜〜〜〜!」
ブルック「よくぞ無事で!
よかったぁ〜〜〜〜〜!」
チョッパー「うんうん
本当によかっだぁ〜〜〜〜!」
ウソップ「やったぞ!
これで東の海は無事だぁー!」
ゾロ「だが……しまらねぇな、あの姿は」
ゾロが頭をかいて苦笑を浮かべた。
サンジ「ああ」
ナミ「うん……ほんと」
フロル「ははっ……あいつらしいや」
ロビン「ふふっ」
一服するサンジと涙を隠さぬナミ。
そして、弟の無事を目にしてホッと安心したのか涙を浮かべてフロルが笑い、ロビンが微笑む。
ギア3の反動で、ルフィは例によって空気が抜けた風船みたいに小さくなってしまっていた。
ビリーの背に乗ったルフィは、サイクロンのまわりを旋回した。
そして敗れた者
──金獅子のシキは、まっ逆さまに落ちていった。
意識はなく、能力者にとっては奈落の底である海に墜落していく。
そして島は、ゆっくりと崩れ落ちていった。
ロビン「シキの能力が解除されてるんだわ……!」
崩壊は、とどめようもなかった。
悪魔の実の能力が途絶えたのだ。
シキが意識を失い、倒され、海に落ちたことの証だった。
チョッパー「!シャオたちは………!」
ウソップ「おい!あれ見ろ!」
みなが見つめた先には
──メルヴィユが残した最後の、最高の進化の奇蹟が現れた。
翼──
一つ、二つ
………人の数だけの翼が、嵐のなか、風に乗って島から離陸していく。
メルヴィユの村人たちは、鳥のように飛んでいた。
飾りでしかなかった腕の羽根は、大きく広がっていた。
進化は、人に翼を与えた。
そうして風を友としたメルヴィユの村人たちは、もはや怖れることなく、はるかな空に暮らす者となったのだ。
きっと、笑顔で。
シャオたちは家族とともに、新たな世界へと飛び立つだろう。
無事を祈っていた故郷も、仲間も、弟も、 今も変わらぬ姿にあることにフロルは安堵した。
何もできずに、また大事なものも、人も失うと思っていた。
しかし、今は違った。
仲間とともに戦い、守ることができた。
シキに囚われた時に見た夢は現実にはならなかった。
誰ひとり欠けることなく、失わずにすんだのだ。
フロル「よかった………」
ナミ「うんっ」
同じように安堵の声をだすナミにフロルは声をかけた。
フロル「ナミお前……無茶しすぎ」
ナミ「そんなの、あんただって……」
ナミの言葉が途切れたと思えば、ふらっと甲板に倒れた。
サンジ「ナミさん──!?」
フロル「だから言ったろ……無茶、しすぎだっ……て………」
次いで安堵と体の限界に、フロルまでもが甲板に倒れた。
ウソップ「フロル!?」
仲間たちが、あわてて集まった。
「島が落ちてくるぞ!」
監視の海兵が声を上げた。
元帥の命令を受けて、海軍本部を襲撃した金獅子のシキの島船を追跡していた中将たち
──ヤマカジ、ストロベリー、オニグモらの艦隊は、空中群島メルヴィユの崩壊に立ち会うことになった。
海兵たちが慌てふためくなか、空にあった島が折り重なって、次々と海面に着水した。
おこされた波紋が、津波となって海軍艦隊を襲った。
そこは、さすがに中将率いる歴戦の精鋭艦隊だった。
津波に対して船首を直角に、巧みな操船によって転覆を回避する。
そうしてメルヴィユは、海にもどった。
シキのフワフワの実の能力が、徐々に解けているからだろう。
自由落下ではなく、ゆっくりと着水したため、多くの島は森や平原をふくめて、かろうじて原型をとどめていた。
嵐のなか、避難していた島の群れが海に落ちた島に帰ってくる。
見れば、陸や海の動物たちも全滅をまぬがれていた。
「シキがいたぞ〜!」
海兵が声を上げた。
「金獅子のシキを捕らえろ!」
海に落ち力を失ったシキを捕らえるため、海兵たちが小舟を出そうとする。
オニグモ中将が、ん、っと空を仰いだ。
島につづいて落ちてきたのは海賊旗のパラシュート
──そこにぶら下がった宝樹の船、ライオンの船首像は、海軍本部では知られた連中のものだ。
「まさかあいつらが、これ全部やったのか………!?」
海賊、麦わらの一味だ。
シキの回収に人員を割くと、残った艦隊はサウザンドサニー号を狙った。
「目標麦わらの一味!
砲撃用意………!」
着水したサウザンドサニー号は、パラシュートを切り離すと、すぐさま帆をはった。
砲声の直後、周囲にいくつもの水柱が立ち上がる。
海軍の存在には、落下中に気がついていた。
ここは逃げの一手だった。
ルフィ「あたらねぇよ、バーカ!」
ビリーとともに帰還したルフィは海軍の砲撃をからかった。
ウソップ「へへん!
驚くなよ、てめぇら!
この船の逃げ足に!」
ウソップ、チョッパー、ブルックのお調子者たちも、海軍にむかってお尻ペンペンして挑発する。
ルフィ「よ〜〜〜〜し!
ぶっ飛べフランキー!」
風来・バーストをリクエストしたルフィだったが、フランキーは、かぶりをふった。
フランキー「もうコーラがねーよ」
ルフィ「ええええっ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
海軍艦隊は、ぐんぐん風をとらえて迫ってくる。
ウソップ「やばいぞ!
いつの間にか右舷にも軍艦が!」
フランキー「オールを出せ!
漕ぎまくるぞぉ!」
造船技術の粋をあつめたハイテク高性能船も、ついに人力に頼るしかなくなった。
ウソップ「ちくしょ〜〜〜!
フロルなら、こんなもん一発なのにぃいい!」
フロルの空色の指輪の能力をもってすれば、追ってくる海軍艦隊など一発で潰してしまうのに。
倒れて意識を失った副船長が頭をよぎりながらルフィたちは必死になってオールをこいだ。
海軍と海賊。
追う者と追われる者の追いかけっこが、またはじまった。
『──そうです
あの麦わらの一味が』
世界政府の転覆を謀る金獅子のシキ追討命令を出していた部下からの報告を受けた海軍元帥センゴクは、執務室の机に湯飲みをおいた。
電伝虫の通信に耳を傾ける。
あの《麦わらのルフィ》そして《魔法使いフロル》とその一味が、シキを擁する島船と空中群島、その全戦力を壊滅させたという。
海に落ちたシキは目下、捜索中。
シキのもとに集まった海賊たちは捕縛されて、金獅子の乱は、かろうじて防がれたのだった。
『現在、情報をまとめておりますので、詳細は追って報告いたします』
わかった、とセンゴクが応じると電伝虫の通信が切れた。
絶対的正義。
執務室に掲げられた墨書を前に、知将と呼ばれる男は机に肘をついて思案した。
その心中には海軍旗の旗印のもと、あらゆる責任を負った海軍元帥以外には到底考えおよばない、容易に結論も出せないだろう。
複雑な感情があふれた。
センゴク「我々は、何もしていない……か………」