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□FILM STRONG WORLD
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大海原(おおうなばら)をサウザンドサニー号が進む。

順風満帆(まんぱん)、海軍艦隊の追撃をやり過ごした麦わらの一味の仲間たちは、戦いを終えて、ゆっくりと体を休めていた。


サウザンドサニー号の男部屋のベットでフロルは休んでいた。

怪我も何とか回復し、体を起こしていたフロルは首から外していた赤色の指輪を手に乗せ少しだけ考えていた。

ルフィとシキが対峙(たいじ)した時に起こった雷について。

自分が、ルフィを助けてくれと願ったとき、あの雷がおこった。

偶然か、必然か。

もしかしたら、母さんと父さんが………守ってくれたのだろうか。


そんな事を考えていた。


フロル「……まさか…な」

自分の両親はもう、この世にはいない。

何かができる訳はない。

ただ、この指輪を通して見守っていてくれていると信じてはいる。


そんな事を思っていると、男部屋の扉が開いてチョッパーが顔をのぞかせた。

その手には診察カバンを持っている。



チョッパー「フロル、怪我の痛みはどうだ?」

チョッパーはフロルの怪我の具合、体調の様子を見にきたようだ。

その問いにフロルは指輪を首にかけて答えた。


フロル「もう、大丈夫
痛みもほとんどないよ」

チョッパー「そうか、でも念のためもう一度怪我の具合見せてくれ」

チョッパーは診察を終えると、安心したように頷いた。

チョッパー「うん、よかった
だいぶ回復してきてるみたいだ
あっ、でも少しでも痛みがあったら言うんだぞ?」

フロル「分かってるよ………ありがとうチョッパー
そういえば、ナミももう心配ないって?」

チョッパー「うん、ナミも思ったより早く回復できたよ
解毒剤がきいたみたいでよかった
もう痣も消えてるし、大丈夫だ」

フロル「そっか……よかった」

チョッパー「でもだからって、まだ無理はしないほうがいいぞ」

フロル「大丈夫……
………少しだけ、外の空気も吸いたいし」

フロルはベットの外に足を出して立ち上がった。

チョッパ「そうか……ナミも起きたいって言ってたし、それなら行こう
みんな喜ぶよ」

チョッパーは一足先に部屋を出ていった。

そして起きたいと言っていたナミも部屋から出たようだ。

部屋の外から仲間たちの声が聞こえる。

扉の前で立ち止まって、深呼吸をするとゆっくりと扉を開けた。

故郷と仲間の無事に、感謝しながら。





ガチャッ



チョッパー「フロル!
みんな、フロルが起きたぞ!」

チョッパーの声に、仲間たちは明るい表情で振り返った。

ナミ「フロル、もういいの?」

フロル「あぁ、ナミも元気みたいだな」

ナミ「ええ、もうすっかりね」

ゾロ「復活すんのがおせぇんじゃねぇか?フロル」

からかい顔で言うゾロにフロルは軽口で返した。

フロル「うるせぇ
これでも早いほうだっての
チョッパーのおかげだ」

チョッパー「え?
バ……バカヤロウ!
ホメられても嬉しくなんかねぇぞ、このヤローが!」

口で文句を言いつつ顔は喜びを隠せないチョッパーは、いつものリアクションをかえした。

ブルック「本当によかった!
元気になったところで………すいませんお二人とも、パンツ──」

サンジ「やめろ!」

サンジの音速のダメ出しをくらったセクハラガイコツが、骨格模型のようにカックンカックンしながら、ふっ飛んでいった。


フロル「いや、なんで俺もだよ」

ナミならともかく自分にまでパンツのくだりを言うブルックにフロルは苦笑した。


しかしそこにあったのは、いつものサウザンドサニー号の光景だった。

フロルとナミは、ようやく心から安堵(あんど)した。



「おい、フロル!ナミ!」

『?』

「お前らこれ、どういう事だ!」


なぜか不機嫌な様子で、ルフィがやってきた。

音貝(トーンダイヤル)を持って、フロルとナミに見せつける。

これ、というのは二人が残した伝言のことだ。


フロル「あっ、お前!」

ナミ「ちょっとそれ!」

ルフィ「おれがシキに(かな)わねぇとか、みんなが死ぬとか、約束は守れねぇとか、くだらねぇ言葉残しやがって!

そりゃ、あの時は船ごと落とされたり地面に()みこまれちまったけどよ!
ありゃ……腹も減ってたし!」

二人は慌ててルフィから音貝(トーンダイヤル)を奪おうとした。

あの時は切羽つまった状況だったから、ああするしかなかったから、あんな心をさらけ出すような言葉を吹き込んだが、今になってそれを()し返されるのは恥ずかしい。

ナミ「だから、わたしもそう思って………!」

フロル「あの時は、ああするしかなかったから………!」

ルフィ「呆れたぞ、おれは!
この長いつきあいで、兄弟なのに、そんなに信用がねぇとは思わなかった
がっかりだ!」

フロル「ルフィお前、話きけって……!」

どうやらルフィは本気で腹を立てていた。

仲間たちからすれば、自分が信用されていないと感じたルフィが、すねているようにしか見えなかった。

そもそもルフィは、なぜ怒っているのだ……?


ウソップ「おい、ルフィ……お前、なに言ってんだ?」

ルフィ「何って、なんだよ?」

ゾロ「まさか聞いてなかったのか?」

ロビン「二人とも、ああ言うしかない状況だったんでしょ?」

チョッパー「おれも、そう思ってたぞ………?
最後のあれ、聞いたら……」

ルフィ「あれ?
最後のあれって、何だよ!」

どうやらルフィの早とちりなのだと、みんなが気づいた。

あの時、それぞれがそれぞれの状況でシキに(さと)られぬよう、最後に音貝(トーンダイヤル)に、小声でふきこんだ言葉(あれ)は──


フロル「むしろお前にむけて言ったようなもんだぞ……」

がっくり脱力して、フロルはルフィを見た。

フランキー「もう一度、聞けばいいだろ」

フロル「バカお前フランキー!
よけいな事言うなよ!」

ルフィ「あ、そっか……」

フロル「ルフィ!
聞かなくていいっての!
手から離せ!!」

ルフィ「やだ!
もっかい聞くぞ、おれは」

フロル「お前たまには兄ちゃんの言うこと聞けよー!!」

フロルとルフィの攻防がはじまった。

しかしルフィはフロルの声が吹き込まれた音貝(トーンダイヤル)のスイッチを押した。

フロル「ちょっと、まて!!
やめろって!」

兄弟二人の音貝(トーンダイヤル)の取り合いがはじまった。

ナミはもう諦めたように、船長と副船長を苦笑しながら見ていた。







───みんなの前から、黙っていなくなること
約束を守れなかったことを許してください

俺は、シキの一味の仲間になることにしました





ルフィ「静かにしろよ!」

フロル「もういいだろ!
聞かなくていいってルフィ!」

ルフィは声を聞こうとして、フロルは、そうはさせまいと音貝(トーンダイヤル)を海に投げ捨てようとする。







──シキは、みんなが戦いを挑んでも絶対に敵わない相手……
みんなが俺を助けにきてくれたとしても、命を落とす結果になる

──不甲斐ない副船長で
ダメな兄で……本当にごめんなさい

──俺はもうお前たちの副船長ではいられないけど、かわらずこの先の航海をつづけてください








これだけは、言っておきたかった。
伝えたかった。


ルフィとフロルの手が重なる。

勢いあまって放り上げられた音貝(トーンダイヤル)が、青空にむかって飛んでいった。






──これだけ言っておきます













───かならず、助けに来てくれ
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