短編

□微妙な距離
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「麻倉君」

「ハオだ」

「麻倉君」

「紀」

紀が風邪をひいたあの日から、僕達は常に一緒にいるようになった。
一番変わったのは、紀が自分から僕に話しかけるようになったことだろう。

「葉は"葉君"で、僕は"麻倉君"というのはおかしいんじゃないかな」

「こっちの方がしっくりくるからいいの」

おかしい。そんな理由は認められない。


僕はよく人に怖がられる。(そこがいいと言っている女子もいたが…)
だから紀も僕を嫌いになったかと思った。
でも違うらしい。

友達になりたいと、そう言ってきたのだ。


「紀はおかしな娘だな」

もう紀であの偽物の笑顔を作ることはなくなった。
そんなことをしなくても、紀といれば自然と顔がほころぶ。

「…上から目線」

むう、と頬をふくらませるその様子が可愛らしい。こんなことを思うのも初めてだ。

「あ、忘れてた」

紀が机に戻って何かを探し始める。
そして丁寧にラッピングされた何かを持ってきた。

「この間のお礼。結局一晩中いてくれたから」

中身はラスクだった。おそらく手作りの。

「パン好きって言ってたから」

だからラスクというチョイスらしい。

「それにしても、年頃の男女が一晩中同じ部屋で…って不健全だね」

「何考えてるんですか」

紀が一歩後ずさる。本当に面白い。

「別に手を出す気なんてないから安心しなよ」

手をひらひらとさせて何もする気はないことを見せる。


そんなことが続き、僕達の関係は微妙なままだ。

そこから何か変わりたいとも思わなかったし、紀もそれは同じらしかった。
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