短編

□同級生
1ページ/9ページ

「君も視えるのか」


「うん」


兎小屋の前で一匹の兎が元気に跳ね回っている。外での解放感を楽しんでいるようだった。

死んでいるけど。

「この子、自分が死んだことわかってないのかな」

「この様子じゃそうなんじゃないか?」

その生徒は兎に手を伸ばす。
もちろん霊に触ることなどできるはずもなく、虚しく体である部分を突き抜けた。


「カッターの傷だよ。切傷できてたんだよね、けっこう深いのがたくさん」


「遊び半分で殺されたみたいだね」

淡々と話は流れていく。

話したことはないけれど、隣でしゃがみこんでいる生徒のことは知っていた。


「このこと先生に報告するの、会長さん?」

僕ではなく兎を見ながら僕に尋ねる。

あちらもこちらのことは知っているらしい。まあ当たり前か。

「君は報告しないのか、椿紀?」

僕に聞いたということは自分でする気がないのか。それとも聞いただけか。

答えは後者だった。
衣擦れの音だけをたててゆっくりと立ち上がる。

「するよ、校則に書いてあるもん。「校内で飼育している生物に危害を加えてはならない」、でしょ?」

まだ僕の顔は見ない。

「よく覚えているんだね」

「さっき見ただけだもの」

そう言うと、僕に生徒証明書を差し出す。


「私のせいなの、生徒会長さん」


ようやく僕の顔を見た。

その顔には何の感情もない。


「へえ。潔いね」

意味もなく口角をあげてそれを受け取る。

校則違反者を取り締まるのは一応僕の役目だ。
はにかむように笑うその写真を見ていると、その生徒が口を開いた。

「あともうひとついい?」

どうせ興味ないことだろうけど、聞いてやることにしようか。

「無茶なことじゃなかったら聞いてあげるけど?」

いい。と言うと、その目に僕を映す



「誰にも迷惑のかからない死に方って知りませんか」



予想外すぎて面食らってしまった。


「生徒会長さん?」

生徒…椿紀は不思議そうに僕を見る。


面白い。

「さて、どうしようか。

と言う前に、僕の名前は"生徒会長さん"じゃない。」


僕の名前は麻倉ハオだ。



それが僕と紀の始まりだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ