騙し騙しの畏敬感
□第四廻
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体力作りのための走り込みの帰り、いつもの道を歩く。なぜか帰ろうとするとこの道に足が向いてしまう。
「しーくん」
『それ止めろ』
「しーくんしーくん」
『だーかーらぁ』
「しーくんしーくんしーくん」
『呼び方変え…』
「しーくんしーくんしーくんしーくん」
『だー!もうわかった!!何だよ、ったく…』
しーくんとの関係はかなり変わったように思う。前は話しかけるどころか存在すら気にしていなかった。
『パッチならもうすぐ来るだろうってあいつが言ってるだろうが。騒がなくてもお前んとこには来るっつーの』
しーくんはだいたい私の考えていることを察してくれる。
ハオ様意外で唯一まともに話せる存在だ。
「しーくん」
ぐうぅぅぅぅ
『…腹減ったくらい、自分で言えるようになれよ……』
無言でお腹を抑えていると、呆れた目で見られる。
『ザンチンに言えばなんかもらえるだろ』
頼めばザンチンはなんでも作ってくれる。と言っても、私はリクエストはしたことはない。しーくんが食べられるわけでもないのにいろいろ作ってもらっているのだ。
『ほら帰るぞ。さっさとし…ろ…』
しーくんが喋るのをやめて、私も前を見る。
「……?」
見ると、道の先に不思議な格好をした男の人が立っていた。
「はじめまして、紀」
『今日はハンバーグでも作らせるか』
「怪しい者じゃない」
何事もなかったかのように私をくわえて引きずるしーくんの羽を、シルバと名乗った男はつかむ。
「俺はシルバ。シャーマンファイトを運営するパッチ族のひとりだ」
『ちっ。無視して帰ってやろうと思ったのによ』
しーくんの初対面の人に悪態をつく癖はいつまでも治りそうにない。
「しーくん。パッチ族さんってことは、この人に勝たないと参加資格もらえないよ?」
ハオ様から話は聞いていた。私なら大丈夫だと言われたが、負けたらどうなるのだろうか。
そんなものがずっと頭をぐるぐる回っている。
それは「不安」や「緊張」といったものだと、ハオ様は言っていた。
『だりぃ…』
明らかにしーくんが嫌そうな顔になる。
「…話は済んだかな?」
私としーくんを半ば呆れ顔で見ていた男の人がしーくんにそう聞く。
「私に一撃だけ攻撃を当てればよい。制限時間は10分…と言ってもまあ、君の持霊ならそんなに時間はかからないだろうがな」
(…しーくん)
しーくんをじっと見る。
『…ひとつ貸しだからな』
男の人はニヤリと笑ってオーバーソウルを纏う。
私がオーバーソウルをすれば始まりだ。
「降魔調伏」
最低限の巫力を使ってひーくんを具現化する。
「その鬼は…!」
しーくんの姿を見て男の人は驚く。
一瞬動きがぶれた。
その間にしーくんを背後に回り込ませる。
(獲った)
そう思ってオーバーソウルを解こうとしたら、今度は私の背後に男の人が現れた。
「仕留めたかどうかはちゃんと確認した方がいい」
急いで攻撃を避ける。
地面が抉れていた。当たるとたぶん痛い。
『シャーマンファイトの参加テストがんな簡単なわけねえだろーが!』
羽として具現化された、鳥の精霊が私に叫んだ。
「親戚?」
ぱっと頭に浮かんだ単語を口に出す。
「確かに君の持霊と同じような口調だが、違う」
また追撃が来る。