短編

□最悪な相手
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最初は楽しかった。この旅がずっと続けばいいと思うほど充実していた。

あいつらと会うまでは。


「待ってよリゼルグ君!」

行っちゃう。リゼルグ君がいなくなっちゃう。

「ごめん。ハオを倒すためには、これしか…」

私達に背を向けるリゼルグ君を茫然と見つめる。こんなのでさよならなんて嫌だよ。

引き留めたくて、気がつけばがむしゃらに走っていた。

「あ、おい待てよ!」

ホロホロの声が聞こえた。
待てって言うなら追いかけようよ。


「リゼルグ君…っ!」





走って走って、結局リゼルグ君を見失った。

「なんで…どうして…!」

仲間がひとり減るなんて耐えられない。ここまで一緒に来たのに。


泣くこともできず、しゃがみこんでいると、肩に誰かの手が置かれた。

「君も我らの同志にならないか?」

上を向けばさっきの眼鏡の人。

「真っ白の人!」

「X-LAWSだ」

ハオの仲間だからって、それだけで、お友達になれそうだった人を殺した人。

「誰があなた達みたいな人と…!」

その手を払いのける。

「ハオの手下に肩入れをするのか?」

「手下でも何でも、同じ人間だもん」

ああ、イライラする。
せっかくお友達になれると思ったのに。ハオのことを知ることができると思ったのに。

結局…何も話せなかった。

「私は、ハオのことを知りたい
そりゃあホロホロに酷いことした人だし、嫌いだけど…。

でも!でももし、葉の言う通り本当に何か理由があるのなら…!」

そこで詰まった。
きっと言えばただじゃ済まない

「あるのなら?」

勿論のごとくその先を聞かれる。


「話したい。話して、なんとかしてみせる」

だって同じ人間で、シャーマンだもの。きっとそんなに悪い人じゃない。

「なるほど。それが君の答えか」

銃口を向けられる。

「君はハオの手下に加わるつもりなんだな」

「違…っ!!」

天使が放たれる。
ダメだ。全く聞いてもらえていない。



「ちっちぇえな」



死ぬ。そう思ったとき。
痛みはなくて、代わりに誰かに抱えられていた。

(な…っ!?)

「せっかくの仲間候補を殺されては困る」

ぎょっとして見ると、ハオがいた。

ハオだ。未来王、ハオ。

「くっ!もうすでにハオの傘下に入っていたとはな!!」

天使がその力の切っ先を私に向ける。

「スピリット・オブ・ファイア」

一瞬の間に炎が立ち上がり、天使が動きを止めた。


「…すごい」

いつの間に、とか。どうやって、とか。とりあえずよくわからないけど、すごい。

「あの…」

「なんだい?」

いやそんなにこやかに返事をされても。

「私がこれからどうなるのか、簡潔に説明していただけると助かるんですが」

何故敬語?とかそんな疑問はどうでいい。何なんだこの状況は。

「僕の仲間になってシャーマンファイトに参加する。そしてシャーマンキングダムを作り上げ、人間を滅ぼす」

ぺらぺらとわかりやすく言ってくれた。ご丁寧にどうも。


「丁重にお断りさせていただきます」

ハオにひじ打ちをくらわせようとして失敗する。ちょっと惜しかった。

ちっ、と舌打ちすると笑われてしまった。

「命知らずな娘だ」

偉そうに見下されてまたイライラする。

「私はあなたのこと嫌いなの。でも敵わないし、逆らったら死ぬってこともわかってる」

わかっている上で、私はハオの誘いに断っている。

「賢い君なら、今すべき選択はわかっているだろう?」

「嫌だ」

そう言うと、スピリット・オブ・ファイアがこっちを向いた。

「脅してるつもりなんだろうけど、あれいいの?」

私が指差す方向には真っ白の人と天使。
さすがと言うか、今この瞬間も、私とハオに照準を合わせている。

その人を気にもしていない様子で、

「今回僕の目的は散歩だったんだけどね。良い拾い物をした」

私を見てニヤリと笑う。その余裕はどこから来るのか。


「わわわっ!?」

気がつけばスピリット・オブ・ファイアが空中に飛んでいた。
真っ白の人が何か叫んでいるけどもう聞こえない。


「離して!リゼルグ君のこと放っておけないの!!それからホロホロと葉のところに返る!」

暴れるも体格差もあり、全くの無意味な行動になってしまう。

「蓮の名前は出てこないのか」

何故そこで蓮君の名前を出すのか。

「だって蓮君意地悪だし…」

何かと言えば反対して、いつもいつも私に怒ってばっか。カルシウムちゃんと足りてるのかな。

「あいつも報われないな。あれでも君を仲間だとは思っているんだよ?」

「えー…あれで…?」

数々の諸行が甦る。
叩かれたり蹴られたり引っ張られたり殴られたり…

むしろ嫌われているだろう、これは。


「あいつは君のことを仲間だと認識している。友好関係を結びたいとも思っているけど。素直になればいいだけなのにな」

嘲るように笑うハオの腕を今度はつねる。
だがやはり効果なし。

「蓮君のこと悪く言わないで」

「悪くは言っていないよ」
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