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□双子?
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キキ――――――――
ドンッ―――――――
「アトラっ!アトラぁっ!」
少女は真っ赤な少年に覆い被さって泣いていた。



「アトラっ」
アトラと呼ばれた少年は声の主を見て微笑む。
「アスラ?どうしたの?」
アスラは、アトラの兄妹だ。
「一緒に本読まない?」
アスラは図書館に行こうと言うのだ。
アトラも本が好きだ。
「うん、いいよ」
「でも、急にどうして?」
「えへへ、なんとなく!」

アスラが図書館に行きたい本当の理由は、記憶喪失についてだ。
数ヵ月前にバスで事故に遭ってしまったあのとき、アトラは気を失っていた。
そのまま昏睡状態に陥った。
1カ月後に目を覚ましたアトラは記憶を失っていた。

「ついたよ?アスラ?」
「えっ?」
「えっじゃないよ、ついたよって、」
図書館に着いたアトラはうずうずしていた。
早く本が読みたくて仕方がないのだろう。
「あははは、ごめん、ごめん」
「もう、行こ?」

アスラは少し違和感を覚えた。
記憶を失う前のアトラはアスラがぼーっとしていたらアトラもぼーっとする人だったのだ。
たとえ目の前に本があっても。
私が動かない限りアトラも動かないのだ。

「ふわぁぁいっぱい読めていっぱい借りれた〜」
アトラはとても満足そうな顔をしていて、今にも昇天しそうだ。
それに比べてアスラはとても重い顔をしていた。
「どうしたの?いい本無かったの?」
急にアトラが話し掛けるのでアスラは驚いた。
「え?あ、うん」
「何か今日のアスラ変なの〜」
そう呟いた。

「アトラ、起きて?」
なかなかアトラが起きないのでアトラの体を揺さぶって起こそうとしていた。
「ふあぁぁぁぁあんぁぁあぁあっっ!!」
アトラは、急に訳の分からない叫び声をあげると、アスラを押し退けて飛び起きた。
「ちょ、どうしたの!?」
急に叫ぶもので、アスラが驚いてアトラを見る。
「あわわ、アスラ、アスラぁ」
アトラはプチパニックを起こしているようだ。
アスラは慌ててアトラを抱き締める。
「あうう…」
アトラはアスラに身を預けた。
「落ち着いた?」
「うん…」
「どうしたの」
「えっとね…あタぁっ!」
「大丈夫!?」
アトラは少し考えると、急に頭を押さえる。
「うん…えっと、えっとね…」
「無理しなくていいよ、」
アトラはコクりと頷くと
「えっと、アスラとチーズケーキを食べてる夢見たの」
「で、チョコプレートにhappybirthdayって書いてあったの」
「嘘…そ、それはね、私たち二人が15歳になったとき、去年の記憶だよ…!!」
「…だけどね、楽しかったのに、それが崩れていってしまったの、なん、だか、悲しく、て、グスッ」
昔から悲しいのが大嫌いなアトラは綺麗な涙を流した。
「大丈夫だよ、アスラはここにいるよ」
そう言って再度アトラを抱き締めた。
「うん」
アトラはそう言って笑った。

カチャン…

静かに扉の音がする。
アトラが帰ってきた。
「お帰りアトラ、…!」
「、どうしたの、その傷っ…!」
アトラは目を反らした。
「なんでも…ない…」
アトラのこの声は何処と無く震えていた。
「アトラ…」
靴を脱いだアトラはゆるゆると部屋に向かっていった。
、アトラが家を出たときはニコニコと笑顔を見せていた。
あの傷の酷さは不良にでも絡まれたのだろうか。
昔からそうだった。
何回か不良に絡まれて逃げようとしてボコられる。
アトラは不良に絡まれる素質でもあるのだろうか。
兎に角、アトラを落ち着かせるのが先だろう。

「アトラ、鍵開けて?」
アトラは部屋に籠っている。
籠っているときに鍵を掛けるのも何時ものことだ。
「その傷治療しよう、お腹もすいてるでしょ?大丈夫、ここに不良はいないから、よく頑張ったね、よく帰ってこられたね、?」
「だから、鍵開けて?」
鍵が開く音がしてゆっくり扉が開く。
そしてアトラが珍しく歩み出たと思うと、アスラに向けて体が傾いた。
倒れたのかと思ったが、アトラはアスラの体をガッチリ掴んでいた。
「アスラぁ」
一言だけ呟くと腕の力を少し強めた。
アスラは少しだけ自分より低い位置にあるアトラの頭を優しく撫でた。
アトラは怪我でところどころ赤くした顔をさらに真っ赤に染めて、
「もっと誉めて…撫でて……」
と呟いた。

「…ご飯食べづらい……」
機嫌を治し、治療を終えたアトラの顔は絆創膏と包帯まみれになっていて、かなり食べ辛そうだ。
更に右手を捻ってしまっているため、かなり不便のようだ。
幸い利き手を捻ってなかったのが救いだった。
しかし一体どうやってその腕でアスラを抱き締めたのか。
「あはは、大丈夫?」
「大丈夫じゃない…ご飯が食べられないのは大事件だよ」
「ゆっくりでいいからね、誰も奪わないから」
コクりと頷くとまたアトラは食べることに集中し出した。

片手が不自由と言うことは、風呂も満足に入れない。
アスラがアトラをお世話するのは必然的になる。
風呂場の前でアスラは紅潮させた顔をしていた。
アトラを曰く、どうせなら一緒に入ろうということだ。
「そんなに恥ずかしがらないでよ、昔二人で入ってたって言ってたでしょ?」
ニコニコとした顔で無邪気にアトラは喋る。
アスラと入れるのがそんなに嬉しいのか。

「はい、拭くよ、おいで」
アスラはアトラより早くに出てパジャマに着替えると、タオルを持ってアトラを呼ぶ。
アトラはおもいっきりアスラに飛び込んだ。

「アスラぁ一緒に寝て?」
「いいよ?」
アトラは後ろからアスラの体を捕まえてそう言った。
抱く、ではなかった。
本当に捕まえる、だった。

「起きてっアトラ!!」
「ゆあぁあっっ!!」
魘されていた。
また過去の夢でも見たのだろう。
「アスラ…」
「今度はどんな夢見たの…?」
「っ!」
ボンッと音を立てそうなくらい
アトラの顔が急に紅潮し出す。
「恥ずかしい…」
と言っているが、アトラが恥ずかしいと言っているのは大抵かわいいものなので気にはしない。

(言えない…アスラの前で盛大に粗相《お漏らし》したことを思い出したなんて…)
(あぁ、でも盛大にやったからアスラ知ってたんだった…それもその後アスラにされるがまま…)
(あぁあぁあぁああぁあぁああぁ…)

そうして眠る度に記憶を取り戻していたのに、大切なものは思い出せなかった。



「行ってくる〜」
アスラは一人で散歩したい気分らしい。
アトラは家で本を読んでいた。
だけどアトラは急に胸騒ぎがした。

キキ――――――
ドンッ―――――

「アスラぁっ!!」
遅かった。
トラックがアスラを捻り潰す。

その光景を見たのは約20m
遠い。
遠すぎる。
手をいくら伸ばしても届かない。
アトラは縺れる足を無理矢理動かして走る。

やっと横断歩道にたどり着いた。
アスラは頭だけ無事だった。
アトラは涙も声も溢すことが出来ずただアスラの頭を抱き締めた。
アトラは腕のなかを見る。
そこには整った綺麗な顔立ちをしたアスラがいた。
「アスラ、僕を見て」
アスラは片目だけが少し開いていて、アトラはその目を見る。
その目はどうしてもアトラを写さなかった。

「アスラ、何でだろうね?」
信号機を見る。
信号機はアスラが轢かれる少し前から変わらず青色を放っていた。

「アスラ、帰ろう」
おぼつかない足取りでアスラの頭をしっかりと抱き締めながら帰っていた。


全て、思い出した。

アスラは本物の兄弟では無いこと。
母親同士が友達で兄弟となったこと。
アトラが天然ヘアーで困っていたら、アスラも同じような髪型をして喜んでいたこと。
親が少し前に交通事故で二人とも亡くなっていたこと。

そして、僕が記憶を無くしたあの日。
あの日、アスラに何時ものお礼の印として指輪をプレゼントしようと思っていたこと。

だけどもう、それは叶わない。


ベッドの中でアスラの頭を抱き締めた。
アトラはそのままベッドから出ることはなかった。

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