let go

□let go 9
1ページ/3ページ


忍者とは忍び、耐える者のこと。
任務においてそれを実感することは多々ある。ただ任務を遂行するためだけに長時間、微動だにせず静かにその時を待つ。これは日常茶飯事だ。
あるいは依頼人その他諸々の嫌みな発言や無理難題を受け流してみたり、そんな奴らのセクハラまがいな行為等々。実際、こんなことを耐え忍びたくはないが私は大人なので、内心腹立たしくてもさりげなくかわしてはいる。

天気に耐え忍ぶこともある。任務をする日が毎日心地よいと思えるような天気ではない。暑い日、寒い日、……そして、今日のような雨の日。
着ている服が雨を吸い込んで普段の倍の重さとなり、私の身体にのし掛かってくる。髪の毛はペタペタと顔にまとわりついて、なおも降ってくる雨により、顔を含めた全身に水を浴びせられている。これが自宅のシャワーなら最高なのにと小言をつきたくもなるが、今は任務中。それは帰ってからにとっておくとしよう。

大体、木ノ葉を出発する時には雲一つない、とても爽やかな天気であった。いい天気ですねと本日一緒に任務に就くことになった忍に話すと、短く肯定の返事をされた。
しかし、次第にその雲行きは怪しくなっていく。最初は少し太陽が隠れてきたなと思う程度であったが、徐々に空全体が雲に覆われ、ポツポツと雨が落ちてきた。まだこれくらいなら大丈夫、そう思いながらも目的地まで歩いていけば突然横なぐりの雨。
開いた口がふさがらないとはこのことか。

「…いい天気か。確かにな」

皮肉めいた発言をしてくるマダラを恨めしそうに見ると、何事もないかのように雨に打たれている。
この辺に雨宿りできるような場所はないし、任務中だし、そもそもここまでずぶ濡れになってしまってから雨を避けても仕方がないのかもしれない。
気持ち的なものも相まって、足取りもさらに重くなる。

今回の任務は、いかにも高価な物が入っていそうな箱を受取人の元へ届けるという任務だ。この箱自体も高そうで頑丈な見た目な上、立派な錠前もついている。送り主は木ノ葉にある店の店主で、受取人は火の国の外れにある小さな集落で店を営んでいるという。
私はこの箱の中身は知らない。ただ箱を届けるだけの任務に忍を二人つけるということは何かしらの理由があるのだろう。

「あの、マダラ様?」
「あ?」

うわ、凄く機嫌の悪さが滲み出ている。

「この箱を届けるだけなのに、忍を二人も任務に当たらせるっておかしくないですか?」
「お前一人で届けられるか心配だったんだろ」
「じゃあマダラ様だけで良かったんじゃないですか?全然効率的じゃない!この任務!」

考えてみれば本当にこの人だけでいいではないか。なぜなら二人になると必然的に報酬もそれなりに高くなってしまう。それよりならマダラ一人に任せた方が報酬も最小限で済むし(とはいえ高額そうだけど)、しかも強いし、一石二鳥だろう。
そんな、今さらなことを考えていれば右頬に突然の痛み。

「ごちゃごちゃうるせえな!オレは今、この雨に苛ついてんだよ!この期に及んで、そんなこと言ってんじゃねェ!」
「痛い、痛いぃ!」

マダラの指が私の頬を掴み、引っ張っていて、彼の思うがままに痛みを与えてくる。

「どうせ雨に嫌気がさして、オレ一人で行けばいいなどと言い出したんだろう?よくこのオレにそんな無礼なことを言えるな、名前よ」
「は、離して……」

やっとの思いでそう話すと、彼の指はようやく私の頬を解放した。しかし、痛みはまだジンジンと頬に存在している。右手でその痛みの部位を抑えれば、なんとなく熱くなっているような気がした。

「…痛みを通り越して、もはや熱いです」
「では、ちょうどこの雨で冷えるじゃないか。良かったな」
「はあ!?」

ああ、もう!ただでさえずぶ濡れで腹立たしいのに、この男のせいでさらに腹立たしい。会ったこともない依頼人に八つ当たりしたくなるくらいだ。今日の任務がなければこんな思いをせずに済んだのに。
大体この箱も頑丈に作り過ぎていて重いし、かさ張るんだよ。早く箱の受取人の元へ行き、さっさと渡してさっさと木ノ葉へ帰りたい。
明らかにマダラを避けるように早足になり、彼よりも少し前を歩いた。それを彼は今日に限って不審に思ったのだろうか。後ろから私の背中に向けて話し掛けてくる。

「どうした。機嫌でも損ねたか?」
「……別に」

本当の本当は、彼の問い掛けに無視で返事をしてやろうと思っていたのだが、冷たくしつつも言い返してやったのは私の優しさだ。感謝しろ。
…と、こんな些細な優越感がなければ乗り越えられないほど、心が折れかけている。

未だ勢いよく降り続けている雨は確かに熱を持った頬を冷やしてくれた。が、同じ任務に就くマダラとの空気も冷やしてくれるという誤算も生じていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ