let go

□let go 8
1ページ/4ページ


酒はそんなに強いわけではない。とはいえ物凄く弱いというわけでもない。我を失わない程度にほどほどに飲めて、場を楽しめる。それが仲の良い友達との飲み会ならなおさらだ。

木ノ葉の繁華街の一角にあるこの居酒屋は、忍の者と一般人とで溢れかえっていた。カウンター席にも何人か座ることができるが、私は個室で桃華さんと二人、ああでもないこうでもないと世間話に花を咲かせている。
入店する際、さすが人気店だけあって、個室はあと三十分ほど待たなければ通せない、カウンター席であればすぐに通せると言われた。が、桃華さんは頑なに個室でなければならないと拒んだため、料理と酒にたどり着くまでに少々時間を要した。私はあまりの空腹にカウンター席でも良いと彼女に言ったのだが、彼女はその提案を被せ気味に拒否した。

「なんでそんなに拒否するんですか?」
「名前の時代は本当に良い意味で自由なのね。こちらではまだ女が外で酒を飲むなんてほとんどないの。カウンター席にいたら他の客の視線が痛いのよ」
「そうなんだ…。私達の時代ではむしろ女の勢力が強くて。くのいち達が飲んでると男の忍は隠れるように飲んでますよ。噂の的にならないように」
「それって想像するだけで面白い光景ね!」

桃華さんは目をキラキラさせて、興味深そうに話を聞いている。

「女子会なんてやった日には大変なことになりますよ。そのメンバーの彼氏が迎えにくると根掘り葉掘り問い詰めて、全部答えるまで帰さないという、その彼にとっては苦痛な時間です」
「拷問ね、それ」
「男子は恐れおののいてます」

桃華さんは腹を抱えて笑い、目には涙まで浮かべていた。酒のせいだろうか。普段の彼女よりも陽気な印象だ。
明日は休みだから飲む!と意気込んでいただけあって、かなりいい勢いで飲み続けている。私も明日は休みだが二日酔いになりたくないし、修行があることも考えていつものようにほどほどにしている。それに私が今欲しているのは酒よりも料理だ。運ばれてきたものを食べてはいるがまだ足りない。メニューを開いて次は何を頼もうか悩んでいると、向かい側からお酒追加ね、という声が飛んできた。メニューで顔を隠すように目だけで彼女を覗き込んで、まだ飲むのかとやや呆れ気味に問うと当然とばかりに頷いた。

「名前、あなたも飲んでるー?」
「飲んでますよ。それに私お腹が空いてて」
「今日は女子会よ!腹割って話すわ、覚悟しなさい」
「ええー?」

もう結構腹割って話していると思うなどと思いつつ、注文をするために個室の襖を開け、店員を呼ぶ。

「すいませーん。唐揚げと、お酒同じやつお願いします。……桃華さん明日も修行するんですよ!飲み過ぎだと思いますけど」

そう言いながら私もお猪口に口をつけ、彼女はその光景を見ながら威勢良く話す。

「へーきよ!それよりさ、名前は付き合ってる人いるの?」
「……なんです、急に」
「ずーっと気になってたのよねえ」

テーブルに頬杖をつき、ニヤニヤと私の反応を見る彼女はとても楽しそうだ。確かにこれまで様々な話を彼女としてきたが、この手の話をするのは初めてだ。元の時代にいた頃は、木ノ葉のくのいち達やテマリと恋愛事情を話したものである。

「いませんよ、そんな人」
「意外ね!名前に恋人がいないなんて!」
「ちょっと桃華さん、声大きい!抑えて抑えて!」
「だって本当に意外なんだもの。びっくりしちゃって」

私に彼氏がいないということをそのようなボリュームで話されると、今この店にいる人達全員にバレてしまう。穴があったら入りたいとはこのことか。だが、まあいいか。ここには私の知り合いもいないだろうし、いたところで別に興味ないだろうし。

「桃華さんは彼氏さんいるんですか?」

私もにやつきながら聞き返せば、彼女は恥ずかしそうに話し始めた。しかも、このガヤガヤとした店内では少々聞き取りにくいくらいの小さな声で。

「いるよ。もう付き合ってそれなりに経つかな」
「え!?どんな人どんな人?」
「忍だよ。でも今は長期任務で木ノ葉にいないの。帰ってきたら紹介するね」
「うわあ!是非」

桃華さんと付き合う人はどんな人なのかと想像してみる。たぶん犬猿の仲であろう扉間様とは真逆の人だろうと無礼なことを思いつつ、再び酒を流し込んだ。
先ほど頼んだ料理と酒はまだかと思っていたまさにその時。
バシン!と突如勢いよく開かれた襖に驚き、びくりと身体が跳ねる。音の鳴る方を向き、襖を開けた主を見開いた目で見ると笑顔の柱間様…と、その後方にはうちはマダラ。

「なんぞ、お前達も来ていたのだな!」

柱間様はだいぶ酔った様子で、物凄くご機嫌だ。それに対してマダラは顔色一つ変えていない。
というかこういう大衆酒場にも来るのか。この人達、本当に神出鬼没。

「マダラ!せっかくだからここにお邪魔しようぞ!」

そう言うと大きな足音を立てて上がり込む柱間様と、それを見て仕方ないなというように溜め息をつくマダラ。
どうぞどうぞと私の隣に移動してくる桃華さんと、固まる私。

夜はまだ始まったばかり。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ