let go

□let go 7
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「これ、ここでいいの?」
「あ、はい!それからこのテーブル、一緒に居間に運んでもらっていいですか?」
「わかった」

せーの!の掛け声で二人同時に持ち上げ、少し先の居間まで歩いていく。一時的に物置場と化していた廊下が広くなって、無理にすり抜けなくても通れるようになった。
家を与えられてから、こうして家具を相応の位置に置けるようになるまで五日はかかった。入居前に清掃はされていたが、家具はほとんどない状態。任務の合間に買い物に行き、とりあえずは廊下に置いておこうなんて考えでいたら、収拾がつかなくなってしまった。
一人で家具の移動作業は考えただけで嫌になったので桃華さんに手伝ってもらえないか相談すると、彼女は快く了承してくれた。本当にありがたい。そしてお互いの休みが合った本日、ようやく作業に勤しめることになった。つまり、今日から私はこの家で一人暮らしを開始する。

建物自体はそれなりに古かったが、柱間様のご厚意で簡単な補修をすると、不自由なく暮らせるとても良い家だ。元は人が住んでいたが、他の家へ引っ越してしまっていたため長らく空き家となり、誰にも管理されずにいた。里の中心部からは離れているが静かで住みやすそうだ。

テーブルを居間まで持っていき、ちょうどいい位置に落ち着ける。一息つくと桃華さんが喋りだす。

「やっぱり、二人だけだと大変だったかしら」
「すみません、桃華さん。せっかくの休みに手伝わせて」
「ううん、それはいいの。この前ね、名前の引っ越しを手伝うって柱間様に話したら、他の忍にも手伝わせるなんて言われたんだけどね。女性が一人暮らしする家には上げられません!って断っちゃった」
「あはは!確かに、そう簡単には上げられません!」
「でしょう?」

雑談しながら、用意していた布巾でテーブルを隅々まで拭き取る。その間、桃華さんは居間の窓を開けて換気する。

「意外と早く終わりそうね」
「そうですね!もう少ししたら休憩しましょっか!私、昨日美味しそうなお菓子買ってきたんで」
「本当に?楽しみ!」

大変だが、二人でお喋りしながらの作業は楽しかった。それくらい、桃華さんとは私がこの時代に来てから仲良くなったし、色々お世話してくれた。彼女と話していると、まるでテマリと話しているかのように気楽だった。
ーーーテマリはどうしているのだろう。私のことはいい、あなただけでも無事で元の時代にいて欲しい、そう願っていた。





「私に術をかけた抜け忍の情報、何か入ってます?」
「いいえ、今のところ手掛かりなしね」
「そっか…」

やはりそう簡単には戻してもらえないか。淹れたばかりのお茶を一口飲み、目線を落とすと水面が揺れた。

「やっぱり…帰りたい、よね?」

桃華さんを見ると笑みを作ってはいるものの、少し寂しげな表情だった。心配そうに彼女を見ると、彼女は焦ったように言う。

「あ!ごめんごめん!名前の本当に生きるべき場所は未来だものね」
「桃華さん…」
「もちろん、未来に戻してあげたい気持ちはあるんだけれど…。せっかく友達になれたし、ずっと一緒にいたいっていう気持ちもあって…」

桃華さんの気持ちはまっすぐ私に伝わってきた。私も帰りたい気持ちとこの時代にいたい気持ち、どちらもあるのだ。こちらの人達は私に親切に接してくれているし、桃華さんは私を友達だと言ってくれている。本当にありがたいことだと思う。
私に戻るか戻らないかを選ぶ権利はないけれど、もしそれを突き付けられたら迷ってしまうかもしれない。

「ありがとうございます。私も桃華さんと友達になれて、本当に嬉しいです」

今はそれしか言えない。
なんだか湿っぽい雰囲気になってしまい、話題を変えようと思い、この前の任務の時から考えていたことを話そうと決めた。

「桃華さん、最近修行してます?」
「修行かあ。そういえば任務にかこつけて最近はしてないな」
「実は私もそうなんです。しかもこの間、マダラ様との任務で指摘されちゃって…。修行しないとなって思ってたところなんです」
「……マダラ様が指摘を?」

桃華さんは私の発言に首をかしげた。何かおかしなことを言っただろうか。

「しかもそれが鋭くて!なので桃華さん、一緒に修行しませんか?」
「是非!じゃあやるからには定期的にやりたいね」
「そうですね!良かったー、修行の相手が見つかって。体術がぬるいって言われたんですよ。だからそれを重点的にしようかな」

修行で成長しなければ、その先にある任務での成長はあり得ない。修行でできないことを任務ではできるなんて甘い考えを私は持っていない。
うちはマダラに言われたことに、悔しく、腹立たしい気持ちになったのは事実だ。しかし今思えば、私が今まで背けてきた現実にしっかり向き合えと語りかけてくるかのようだった。

「今日、作業が終わってゆっくりしたら手合わせしてみない?試しに」
「いいですね。お互い、手加減はなしでいきましょう」
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