let go
□let go 6
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こんなにも、任務でプレッシャーを感じたことが未だかつてあっただろうか。
私の耳に届いているのは二つの足音、静かに暴れるような自分の心音、それだけである。足音は自分のものと、今回任務で組むことになった男の忍のもの。
私は忍とはいえ、自分よりも長身の男の歩幅に合わせるのは一苦労だ。最初は合わせるよう気を付けていても、徐々にその差は開いていってしまう。別に差が開いたからといって迷子になるわけでもないし、私にとって何の支障もないのだが、彼は後ろに立たれるのを嫌がった。木ノ葉から出発する際、それを知らずに彼の後ろを歩くと「オレの後ろに立つな」と不快そうな表情で注意された。かと言って横に並ぶと歩幅を合わせるのに苦労をする。そして私が勝手に感じる無言の重圧、それに伴う心臓の忙しなさ。
……疲れる。物凄く、疲れる。
まだ任務前なのに、こんなに疲れていて大丈夫なのだろうか。身体的疲労よりも精神的疲労が半端じゃない。
そもそもの原因は私の隣を歩く男、うちはマダラにある。そして現在、彼との初任務の真っ最中でもある。
歩幅を合わせることに集中しながらも、それに疲れて現実逃避のように別のことを考えたくなった。
私は任務内容を説明された昨日のことを思い出しながら歩を進めていく。
※
火影室の木製の扉をノックするとそれと同時に、室内でされていた会話がピタリと止まり、柱間様の入っていいぞという声が聞こえた。
「おはようございます。柱間様、お呼びですか?」
火影室の扉を開ければ柱間様がいつもの笑顔で出迎えてくれた。会話が聞こえていたということは室内にはまだ誰かいる。扉間様かな、などと思いながら、扉を全開放すれば柱間様の近くに立つうちはマダラ。彼はいつも通り、顔色を変えずに私の方を向いた。
「マダラ様、おはようございます」
「…ああ」
おはようと挨拶したらおはようと返してくれればいいのになんて、彼に対してどうしようもないことを考えていれば別方向から違う声。
「なんだその腑抜けた顔は」
やっぱり。
またいらしたんですね。前も思いましたが、火影室にいるのに気配を消すのやめてもらっていいですか。とても心臓に悪いです。
「扉間様…、火影室で気配を消すのやめてもらえませんかね…」
「気付かない貴様が悪い」
「はあ…」
たぶんいつ何時でも気配を消してしまうんだろうな。そういう癖なんだ、この人は。諦めたように溜め息をつくと扉間様は続けて言う。あ、凄く機嫌が悪そう。
「前から思っていたがな、その額当ての使い方はなんだ」
「なんだって…。腕に巻いてるだけじゃないですか」
そう、私は普段から額当てを二の腕に巻いている。これは元の時代でも、こちらでも変えていない。なぜならみんながしているように頭部に巻くと、ずれた時に違和感があり、任務中に気になって仕方がなくなるからだ。それに私のいた時代では様々な場所に額当てをしている人達がたくさんいたし、誰も何も言わなかった。それが個性だったから。
「額当てはなんのためにあるのか知らんのか?」
「知ってます。頭を守るためと、どこの里の忍かすぐにわかるようにですよね?」
「その程度のことなら理解しているか。だが、言っていることとやっていることがまるで違うな」
「私はずっと前からここにしてるんです。これが一番落ち着くんですよ!」
「扉間よ。きっと未来では皆、自由にしているのだろうぞ。そう咎めるな」
「未来の忍は乱れている」
「それが個性ってもんですよ、扉間様」
理解されないのも当然か。こちらでは額当ては文字通り額に装着することを目的として作られたのだろうし、それ以外のつけ方なんて誰もしないのだろうから。
「名前、お前の住む家を見つけたんぞ。住めるような状態にしてから引き渡そうと思っているが、一週間くらいはかかりそうだ」
「ありがとうございます、柱間様」
「それから、里外任務が入った。行ってくれるな?」
「もちろんです!」
「よし、今回の任務はマダラと組んでもらうんぞ!」
うちはマダラとの任務なんて、どれだけ難しい任務なのだろう。気付かれないよう密かに彼を見れば、彼も私の方を見ていた。
「マダラ様、いつもどんな任務に就いてるんですか?」
「なんの話だ」
「マダラ様くらい強い忍なら、受ける任務もとんでもなく派手なんだろうなっていう勝手なイメージです」
「下らんな」
マダラは鼻で笑い、小馬鹿にしたように私から目を逸らした。柱間様は私達のやり取りを黙って見ていたが、何か納得したように一度頷くと表情をゆるめた。
「うむ、いいコンビぞ!」
「いや、兄者。今のやり取りでそんなことは微塵も思わんがな…」
「そうか?まあいい。
…それで今回の任務内容だがな、火の国の国境付近で盗賊が現れるらしい。恐らく道を外れた抜け忍の仕業と思われる。その討伐に当たって欲しいとの依頼だ。ただし、生きて連れ帰ってきてくれ」
久しぶりの里外任務に不謹慎ながら私の心は踊ったが、相方はうちはマダラに、任務は道を外れた忍の討伐。全く気を抜けないな、この任務。
「名前、自分の身は自分で守れ。オレは助けてやらないからな」
「マダラ様こそ、私に守られないでくださいよ」
「抜かせ」