let go

□let go 4
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他里と比べて安定し、大国な木ノ葉隠れの里に、任務はどんどん舞い込んだ。護衛、密偵、盗賊の討伐などの危険を伴うもの。それから、家事や宴会でのお酌をするなどの多岐に渡っている。私は今のところ里外任務ができないので、家事や店の見張りなどの任務を請け負っている。

「まるで何でも屋だなあ」
「ん?どうかした?」
「いえ、何も」

二人用の木製テーブルを水で濡らした布で隅々まで拭いてやる。テーブルを湿らせた水は徐々に蒸発し、次第に元の様相を呈してくる。
室内にあるテーブルと椅子は、並べられてはいるものの整然とはしていない。気になってしまい、何ヵ所かのそれらを少しずらせば、それなりに整頓された気がしてしっくりきた。

「オレ、外の掃除してくるね」
「はーい。じゃあ私、旦那さんの手伝いしてきます」

クロノさんは奥の部屋にあったホウキと塵取りを持って外へ出ていった。私は本日の依頼人である定食屋の旦那さんのところへ駆け寄り、下準備をする手元を見た。
今日のメニューはサバ味噌定食、いなり寿司定食、肉じゃが定食の三品だ。美味しそう…、見ているだけでお腹が減る。旦那さんのご厚意で、毎日仕事終わりには定食を食べさせてもらえるので、今日はどれにしようかな、なんて考えていた。

「いやあ、二人に来てもらって本当に助かるよ」
「いえいえ、とんでもないです。却って迷惑ばっかりかけちゃって」
「そんなことないよ!活気があっていいじゃないか!」

七十代半ばの旦那さんは、くしゃりと笑い、目尻にシワを作った愛嬌のある顔がとても良い。
店主である彼は、奥さんとこの店を営んでいた。午前十一時から午後三時まで営業し、お昼のピーク時には店内が満席になる。とても人気のある店だった。
しかしそんな中、奥さんが体調を崩して入院してしまい、一人で店を回すのは大変だということで、その手伝いをしてほしいと任務を依頼された。幸い奥さんの体調も少しずつ回復し、今では退院して自宅で身体を休めている。もう何日かすれば、また店にも復帰できるとのことだった。

今日で店の手伝いをし始めて一週間だ。最初の頃こそ慣れない業務にクロノさんと二人、四苦八苦してばかりであったが、今ではお客さん相手に営業スマイルなんてものもできるようになった。慣れって凄い。

店の手伝いに加えてもう一つ、重要な任務があった。この店には一ヶ月に一度くらいの頻度で食い逃げ犯が出るとのことだった。その特徴は「屈強な大男」という以外に与えられなかったが、旦那さんは顔をしっかりと覚えているとのことだったので、その男が来たら知らせてくれる。顔を覚えているのなら捕まえられるのではないかと思うかもしれないが、七十代の夫婦にその男を取り押さえるのは厳しいものがあるだろう。反撃されたり、他のお客さんに危害が加わる恐れもある。

毎日のように美味しい食事を提供してくれる旦那さんと奥さんを脅かす輩は許せない。なんとしてでも捕らえなければと、自分を奮い立たせた。
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