let go

□let go 3
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二人でああでもない、こうでもないと取り留めのない話をしながら歩いていく。
先ほど忍が現れ、「二人で火影邸に来るようにと言付けを預かってきた」とのことであったためその道中であった。
今日は暖かくて気持ちのいい天気だ。緊張でガチガチになった身体が痛む。空に向かって腕を上げ、一つ伸びをすると身体が軋んだ。

「ねえ、マダラ様どうだった?」

桃華さんのその言葉に、ぴたりと足を止めれば、数歩先へ進んだ彼女も不思議そうにこちらを向いて止まった。
たぶん、私、物凄く驚いた顔をしていると思う。

「……想像していたのと、だいぶ違いました」
「ああ、長老様の話ね!」
「えーと…、まあ、はい」
「言ったじゃない!長老様とは縁遠い見た目だって」

確かにそうだったけれど、私が思ったのはそういうことじゃない。大戦の時の印象と、先ほど対面した時の印象が違うということだった。けらけらと笑う彼女を見て、実は長老様の件なんて今の今まで忘れていました、なんて言えるはずがない。
……でも、確かに長老様とは程遠いな。涙目になっている桃華さんにつられて私もつい吹き出してしまっていた。





火影室に入ると、笑顔の柱間様が私達を出迎えてくれた。

「おお!名前、桃華!よく来たんぞ!」
「おはようございます、柱間様」
「おはよう!マダラのところへはもう行ったのか?」
「はい。さっき挨拶してきました」
「そうか」
「柱間様、昨夜はかなり飲まれたようですね」
「……なぜそれを?」
「先ほど、とある情報筋から仕入れました」
「……マダラか…。昨日は楽しかったんぞ!少々飲み過ぎただけだ」

相変わらずにこにこと屈託のない笑顔を見せている柱間様にも少し焦りの色が見えた。柱間様は豪快でお茶目な人なのだと思う。色んな意味で。

「それを今、咎めていたところだ」

聞き覚えのある声に後ろを振り返れば、壁にもたれ掛かって腕組みをする扉間様、発見。ずっとそこにおられたんですね、とても心臓に悪いです。表情にそれが滲み出ていたのか、彼はこう続ける。

「貴様ら、ワシに気付かぬとは本当に忍か?」
「火影室で気配消す馬鹿がどこにいるっていうのよ」
「まったく。この二人は会えばいつも口喧嘩ぞ」
「あはは…」

柱間様は眉を下げて、呆れ気味に二人を見る。きっと私も柱間様と同じような表情をしているに違いない。
昔はよく柱間様と扉間様、そして桃華さんとで手合わせをしたものだと教えてくれた。どの時代もライバルの存在が互いを高め合うものなのだと言われれば、確かにそうだと頷いた。

「名前と桃華、とにかく座ってくれ」

柱間様は私達を椅子に座るよう促すと、自身も向かい側の椅子に腰を降ろした。扉間様は相変わらず壁にもたれたままだ。

「名前、明日から任務をしてもらうんぞ」
「…! はい!」
「桃華も明日は名前と一緒に任務に就いてくれ」
「わかりました。それで、任務の内容は?」
「それが…、非常に言いにくいのだが…」

柱間様は私達から視線を逸らして言葉を詰まらせた。そして額に右手を当てて、はあ、とため息をつく。彼は今、とても深刻そうな顔をしている。ぶつぶつと、何を言っているのか聞き取れないくらいの独り言までし始めた。私と桃華さんは身を乗り出して、柱間様の言葉を待った。一体どんな難しい任務だというのだ。

「扉間、やっぱりこの任務は断ろうぞ!ワシの心が痛むんぞ!」
「そんな甘えは通用せんぞ、兄者」
「この二人に悪くてだな…」
「任務は任務だ。兄者だってわかっているだろう?忍は任務がなければ食ってはいけぬ」
「いや、しかしだな扉間…」
「黙れ!」

扉間様のその叱責に、柱間様は項垂れた。暗いオーラを纏って落ち込む彼は口を開かず黙り込んでいる。

「兄者が言わないならワシが言う」
「扉間…!」

見るに見かねたのか、扉間様が向かいの椅子まで移動し、柱間様の隣に座った。

「貴様らに、任務を言い渡す」

私達は扉間様を食い入るように見つめる。彼は表情をぴくりとも変えない。私は無意識に握っていた自分の拳が、汗ばんでいることに気が付いた。

「富豪達の宴会での酌婦をしろ。それが今回の任務だ」


……なるほど。要するに自分達で酒を注ぐよりも、女にそれをしてもらった方が気分がいいからお酌してあげてってことですね。ハイハイ。ほんと何言ってんの?

「…それってお酌をするためだけの任務なのかしら?」
「あの!扉間様!それは専門の職業の方がいますし、そちらに任せた方が良いんじゃないですか?その方達はプロですし、粗相もないと思うんですが」
「そうよ!そういう意味なら私達はその道のプロではない。それに、ただお酌するだけなら忍は必要ないでしょ!」
「それが護衛も含めてとか、密偵とかなら話がわかるんですが、今回のはそれとは話が違いませんかね?」

私達の言葉の嵐に、柱間様はやっぱりなというような顔をして、再度額に手をやる。対して扉間様の表情は冷静そのものだ。

「一気に喋るな、鬱陶しい。」

扉間様は目を瞑り、やや眉間にシワを寄せて淡々と続ける。少し苛ついているのか、腕組みした指をトントンと弾ませている。

「断ることができるなら最初からそうしている」
「なんなのよ?」
「富豪達はどうやら気の強そうな女が気に入りらしい」
「はあ?」
「それなら一般人よりくのいちの方が気が強いだろうからと依頼してきたのだ」
「すみません、扉間様。理由が下らなすぎるんですけど…」
「ワシだってそう思っている」

私達はいかにも不服ですと言わんばかりの表情で扉間様に視線を集めれば、彼も半ば呆れ顔で私達を見ていた。

「はあ…。だから言ったんぞ…」
「依頼された以上は任務となるのだ。今の木ノ葉には任務がどんどん舞い込んでくる。簡単なものも、難易度の高いものもな」
「…また任務が増えてきているの?」
「以前とは質の違う軽微なものも、任務としてこなさねばならぬ。そういった意味では増えてきてはいるのかもな」

思えば私達の時代でも家事をしてだとか、逃げたペットを捕まえてきてだとか、そういう個人的な任務は多々あった。
きっと、今この時代から、少しずつ簡単な任務も依頼され始めたに違いない。以前は戦ってばかりだっただろうから。

「二人とも、どうするんぞ?」

柱間様は少々申し訳なさそうに、消え入るような声で私達に尋ねる。任務内容は全く腑に落ちはしなかったが、確かに依頼されれば任務なのだ。その言葉は私の心にしっくりきていた。

「私、やります」
「名前!」
「桃華さん。私、柱間様にも扉間様にも、木ノ葉の人達にも信用されなくちゃいけないから。この任務をそのための第一歩にします」

それを聞いた瞬間、柱間様と桃華さんが目を大きく見開き、はっと息を飲んだのがわかった。私は顔の向きを変えて扉間様を見ると、彼は私を見たまま、右の口角を上げている。
彼の白髪の髪は涼しげで、彼に本当によく似合う。今のその表情にぴったりだ。

「そうだ。認められたければやってみせろ」

挑戦的に吐かれたその言葉を、私は挑戦的に受け取ってやる。

始まりの合図は今鳴った。
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