let go

□let go 2
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「急いでお前の住む家を探させるが、とりあえず今日のところは桃華のところへ世話になれ。いいな、桃華」
「はい、もちろんです」

桃華さんはなんだか楽しそうな様子でそう答えた。私はそれを聞いて申し訳なくなり、彼女に話し掛ける。

「でも、それじゃ桃華さんに迷惑がかかりますし…」
「気にしなくていいのよ、私は大歓迎だから!」

はっきりとそして笑顔で話す彼女を見て、心から私が彼女の家で過ごすことに同意してくれているのだと嬉しくなった。しかしその様子を仏頂面で見続けてくる人がいる。

「桃華、こいつが怪しげな行動をとらぬよう目を光らせておけ」
「今一番の敵はあんたよ、扉間」
「なんだと?」
「疑うばかりで、少しも信じようとしないその性格。ある意味憐れな人間ね」
「貴様……。兄者、やはり一人で住まわせることは危険だ。何か企んでいたらどうする」
「扉間様、私悪いことなんてしませんから…」

はあ、とため息をつくと扉間様にぎろりと睨まれる。目を逸らしたら同じ忍として負けなのではないかという謎の対抗心で、私もまっすぐ彼を見続けた。すると、少し居心地が悪くなったのだろうか。視線を外し、何かを考えているかのように腕を組む。

しかし、こうも疑われると何をしても信用してもらえないのではないかとこちらも疑い、心が疲弊してきてしまう。
確かに私は部外者なのかもしれないが、わけのわからない奇妙な術にかけられてしまった可哀想な人!という同情的なものをこの人は持っていないのだろうか。

「扉間、そうは言ってもやはり息抜きは必要ぞ!早めに家を用意させるんぞ!名前よ、それまで桃華と仲良くやってくれ」

柱間様のその言葉に扉間様はそれ以上何も言わなかったが、恐らく言いたいことは山ほどあるのだろう。そう顔に書いてあった。
火影室の窓から見える空は夕方を告げるように赤く染まっていて、私達を同じ色に染め上げた。もうすぐ夜が来て、目まぐるしく変わる一日が終わるのか。本当に信じられないくらい色々なことがあった。

「そうだ、名前!明日あいつのところにも顔を出してくるんぞ!桃華、明日家まで挨拶させに行ってやってくれ」
「あいつ?」

あいつって誰だろう。偉い人か何かだろうか。きっとわざわざ挨拶をしに行かなければならない人なのだろうから、地位の高い人に違いない。

「わかりました」
「さて、ワシはこれから飲みに行く約束をしているのでこの辺で失礼する」
「じゃあ名前、里を見物がてら私の家に行こうか。…では柱間様、失礼致します」

二人が退室し、火影室の扉が閉まるのを見届け、名前と桃華が遠ざかって行くのを確認した扉間は腕を組んで柱間に「もういいな」と呟く。柱間は頷き、考えるように眉間にシワを寄せて口を開いた。

「…扉間、名前は忍としてどれほどの実力があるのだろうな」
「……」
「これから子供達の中でも少なからず忍を目指す者達が現れるだろう。それは女子も含めてな」
「…ああ」
「今、忍の世界は圧倒的に男が多いんぞ。現にこの里には桃華ただ一人しかくのいちはおらん。しかしこれからは男女が分け隔てなく任務に就く日が必ずくる。そのためにも名前と桃華、あの二人が互いに切磋琢磨して今後の木ノ葉の忍の良い手本になってくれればと思う」
「…兄者とマダラのようにか」
「……そうだ」
「…ふん。まあ、名前がどの程度のものなのかは知らんが、顔つきだけは勇ましかったな」

少し難しい表情をしていた柱間の顔はいつの間にかほぐれていた。
扉間はやれやれといった苦笑いで目を伏せ、息を吐くと柱間に背を向け歩き出す。扉間の背中が離れていくのを見届けるが突然その足がピタリと止まった。柱間は何事かと思い首をかしげると、扉間は背を向けたまま言う。

「そういえば兄者」
「なんぞ扉間」
「飲みに行くのは構わんが、あまり火影の威厳を潰すような飲み方はするな」
「今日は大丈夫ぞ!心配するな!」
「どうだかな。まあ、明日になればわかるか」
「お前は本当に厳しい男ぞ…」
「……それは堅物ということではないよな?」
「……堅物?」
「いや、なんでもない」
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