I don't wanna let you go

□I don't wanna let you go 7
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ここは私が生まれ育った木ノ葉ではない。
しかし抱えきれないくらいの愛しい思い出がある。

”故郷の木ノ葉”からここへ迷い込んだとき、私は言い知れない不安と戦っていた。
誰かと戦うわけではない。
自分の中の不安な自分と戦っていたのだ。

私を見つけてくれ、火影様や扉間様に保護するよう掛け合ってくれた桃華さん。
今ではお互い親友と認めるほどの仲となったし、技術を高め合える存在だ。
たまに里の上層部の任務の振り分け方法について愚痴を言ったり、どうでもいい話を延々と続けたり。
故郷の木ノ葉の友人たちとはもう会うことはできないけれど、それでも寂しいと感じることがないくらいに親しい人たちがたくさんいるのだ。

ここに来てからずっと住み続けていた家にも愛着がある。
廊下を歩いたときの足に伝わるひんやりとした感覚、天井から滴り落ちる雨漏りすら愛おしい。
結構、いや、かなり古いけれどこまめに掃除はしていた。
きっと私が里へ戻ってくる頃には、あの家の中も埃だらけになるに違いない。
蜘蛛が巣を作って、それが服にまとわりつくことを想像した。
せっかく丹精込めて作った巣を突然帰ってきた私に壊されて「なんだ、もう帰って来ちゃったの」なんて思われたりして。
だが、その程度ならばまだマシな方だろう。
老朽化が進んだ家が破損して住むことができなくなっているかもしれない。
そうなってくると今度は家を探さないといけないな、などと考える。
いつ帰ってこられるかなんて誰にもわからないのに。

任務から帰らない私のことをマダラは不審に思うのだろうか。
心配してくれるのだろうか。
それとも別れを告げる手間が省けたと喜ぶのだろうか。
……何も思わないかもしれない。

でもそれでいい。
私のことはどうか忘れてほしい。
私もできるだけ早く忘れられるように任務に没頭するし、努力をしようと思う。

マダラには、あの美しい女性を全力で愛してほしい。
とてもお似合いな2人だと私は思う。
彼女を慈しみ、そして木ノ葉隠れの里とともに彼女を守って。
マダラが幸せになることが、そして木ノ葉隠れの里が平和を保ち続けることが私の喜びであり、幸せなのだ。

だが、正直に言うと私の気持ちは不安でいっぱいだ。
そして孤独でもある。
でもそんなことを誰かに打ち明けることはできないし、したくない。

私はとても幸せな女だと思う。
好きな人に愛され、そして愛することができた。

もう1度戦うだけ。
もう1度だけ自分自身と戦うだけだ。
この不安な気持ちと、孤独と戦うだけなのだ。

そう自分に言い聞かせて、目の前にある”彼”の家を見つめた。
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