I don't wanna let you go

□I don't wanna let you go 7
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何度この扉をくぐっただろうか。
この家は、特段用などなくてもマダラに会うために幾度となく訪れてきた。
しかし、それも今日で最後になるだろう。
手を掛けた扉がいつもより重く感じた。
きっと私の心がその感覚を増幅させている。
扉を開けると同時に鈍い音が耳に入った。
彼はもう”来客”に気付いていると思う。
彼の感知能力には敵わないから。

「マダラ」

そうぽつりと名を呟く。
少し遅れて彼も私の前に姿を現した。

「名前……」

マダラはとてもラフな服装であった。
それも当然だろう。時刻はもう22時。
任務がなければ自宅でゆっくりと過ごしていたり、あるいは就寝準備をするような時間帯なのだ。

「ごめんね、こんな遅くに」
「いや、いい。……久しぶりだな」

マダラからすれば、確かに久しぶりに私の姿を見たのかもしれない。
私が負傷して彼と言い争いになって別れたとき以来だったからだ。
変な意地が邪魔をして、マダラと顔をあわせたくなかったし、彼もまた同様なのだと思う。
彼は少し驚いたように目を見開いたあと、穏やかに微笑んで見せた。

「入っても?」

そうマダラにお伺いを立てると、彼は少し機嫌を損なったように眉間に皺を寄せた。
こんな夜遅い時間に、しかも突然家に入れてくれだなんてはた迷惑な話だ。

「当然だろう、何を今さら」

仏頂面でそう話すマダラに私の心が音をたてる。
”当然”なんて冗談でしょう?
本心は私を面倒な女だと思っているに違いない。

「入れ、少し散らかっているが」
「わっ…!」

不意にマダラに手をとられ、よろめきながらも彼についていく。
マダラの手、こんなに温かい手だっただろうか?それとも私の手が冷たくなっているのだろうか。
マダラを目の前にして、この決心が揺らいでしまうのが怖いから。





手を引かれ、見慣れた廊下を進んでいくと、窓から月が見えた。
煌々と辺りを照らすそれが私には眩しい。
マダラは何も言わない。

居間に通されると、テーブルにたくさんの書類が置かれていた。

「片付けるから適当に座っていろ」

そう話すマダラがやや乱雑に書類をまとめ始める。
ああ、仕事をしていたところに来てしまってタイミングが悪かったな、なんてこんなときにも彼のことを気遣ってしまう自分。
そんなお人好しな一面に苦笑いをする。

「ごめんね、仕事中だったでしょ?」
「そうだが、別に大したことじゃねェ」

大したことじゃないわけがないと私は理解している。
マダラはうちは一族の長であり、里の創設者だ。
任される仕事は私のそれよりも重要性、機密性、そして難易度もはるかに高い。
その書類の中身をできるだけ見ないようにして腰を落ち着けると、片付けを終えたマダラが私の隣に座った。

「怪我の具合いはいいのか?」
「うん、もう大丈夫」

笑って彼の目を見つめた。
彼はとても穏やかで優しさに満ちた表情を私に向ける。
なんだか気恥ずかしくなって目を逸らすと、マダラが距離を詰めて私の唇にキスを落とす。
優しくて軽いそれは、とても久しぶりの感覚な気がした。

「名前……」

私の名を切なそうに呼ぶマダラの声、そして慈愛に満ちた瞳に、彼から受けてきた愛情を思い出す。
こんなことをされ続けたら簡単に絆されてしまう。
啄むようなキスを何度か繰り返したあと、彼は何かを思い出したかのように切り出した。

「そういえば、柱間から酒を貰ってな。結構良い物みてえだし、飲みながらゆっくり話しでもしないか?」

最近そんな時間もとれていなかったからなと、思慮するような発言に私は固まった。
せっかくの私の決心を台無しにしたくない。

黙りこくる私をマダラが不思議そうに覗き込む。
「どうした?」そんなセリフが聞こえたような気がしたが、知らないふりをした。

マダラのごつごつした手をとって、できるだけ妖艶に触れてみせる。
手首から徐々に上に手を滑らせ、彼の肩に辿り着いた。
反射的に彼も私の腰を抱き、いつでも抱き締められる体勢に。
さきほどのお返しとばかりに彼の唇にキスしてみせた。

「どうしたんだ、名前」

拒否はしない、でも普段とは違う私に戸惑う彼。
そう、いつもの私じゃない。ねえ、マダラ、

「―――抱いて」
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