let go

□let go 3
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夕暮れ時、火影邸の前、一人たたずむ私。
外で遊び回ってきたのか、服を泥だらけに汚した子供達が私の前を駆け抜けていく。もうすぐ夕飯なのだろう。子供達は友人と別れてそれぞれの帰路につく。

私はといえば昨日言い渡された任務での集合場所であるここで、先ほどから一人待ちぼうけだ。桃華さんが任務前の挨拶に行ってくると柱間様のところへ向かって数分。まだ戻ってくる気配はない。

今日の任務は富豪達の宴会でお酌をすること。こちらは私と桃華さん、それに護衛の忍を一人つけるとのことだったので計三人。富豪の人数は四人、宴会は約三時間。繁華街の飲み屋を貸し切って、最近の経済状況の話し合いという名目のただの飲み会だ。私達はただ笑って、たまに話し相手になり、お酌をする。要は機嫌をとっていればそれでいいとのことだった。酔っ払いの相手か。結構、いや、だいぶ面倒そう。
私は、謙虚さは大切だと思うし、実際に人と接する時はいつもそれを心がけるようにはしている。しかし、今まで人に媚びるということをしてこなかった女だ。大人の対応で頑張りはするが、何を言われても黙って笑顔でいられる自信はない。

「……おい」

これからの任務のことを考え、心ここにあらずの状態で立っていれば、頭上から聞き覚えのある低い声。びくりとして見上げれば見覚えのある顔。

「マダラ様…」
「ここで何をしている」

彼は、ぼうっと突っ立っている私を怪訝な顔で見ていた。そんな冷たい目で見ないでほしい。これから私には大事な任務があるのです。それにただ立っているわけではなくて人を待っているのです。
彼を見れば、昨朝挨拶で見た時とは違い、きちんと武装していた。ここにいるということは、これから火影邸に用があるのだろうか。

「桃華さんを待っているんです」
「そうか」
「柱間様にご用ですか?」
「ああ、オレはこれから任務がある。その話があると呼ばれた」

うちはマダラと何気なく世間話ができる自分に驚いた。そして何より火影邸の近くに立っていたとはいえ、入り口から離れた場所にいた私に声を掛けてきたこの男に驚いた。……ん?任務?

「任務って…、まさか富豪達の護衛ですか?」
「富豪?」
「これから私達、宴会で富豪達にお酌するっていう任務なんです」
「ハァ?」

彼は眉をひそめるとじっとりとした目で私を見ている。いかにも何を言っているんだこいつは、と言いたそうな表情だ。
そうですよね、そういう反応になりますよね。私もそうなりましたから。

「これから任務だと言ってたんで…、同じ任務なのかと思っちゃいました」
「オレがそんな下らん任務に就くわけねェだろ」
「…ですよねー。すみません」

そう言って苦笑すると、彼は何も言わずに向きを変えて火影邸へと歩いていく。うちはマダラくらいの忍になると、どんな任務が割り当てられるのだろう。やっぱりド派手な任務ばかりなのだろうか。山があったところが一瞬で更地になったり、何十、何百ものターゲットを幻術にかけたり…。
この男が、例えば誰かの護衛をするなんて全く想像がつかない。そして護衛相手に対して下手に出たり、言いなりになっていたり、気を使っているのも想像がつかない。ぼんやりとそんなことを考えていると。

「名前」

私に背を向けてさっさと火影邸まで歩いて行ったのかと思いきや、彼は振り返ってまた声を掛けてきた。なんだか不機嫌そうな様子だ。

「えっ?あ、はい?」
「…お前は任務前にそんなに呆けていていいのか」
「いや、ははは…。任務はちゃんとやります、すみません」

そう返せば彼は、ふん、と鼻で笑って言う。

「酔っ払いの相手か。せいぜい頑張ることだな」

馬鹿にしているのか、励ましてくれているのか、はたまた憐れんでいるのかわからなかったが、任務前に余計なことは考えたくなかったので励ましてくれたということにしておこう。…たぶん馬鹿にされたけど。
うちはマダラはまた私に背を向けて歩きだす。不意打ちで話しかけられて、また上の空でいると思われたくなかったので、彼が今度こそ本当に火影邸の中へと入るのを見届けた。
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