let go

□let go 14
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すっかり遅くなってしまった。
火影邸の廊下をバタバタと走っていくとこれから任務へ向かう忍か、それとも任務から帰ってきた忍なのか。色々な人とすれ違う。すれ違う人達は私の顔を見ると「扉間様が探していたよ」と口を揃えて言っていた。私はその言葉を聞くたびに、彼が怒っていたかを問うとそうでもなさそうとの返答を得て、ほっと胸を撫で下ろしていた。
これから任務説明があり、火影室に呼ばれていた。それはきちんと頭に入っていたのだが直前の任務が長引いてしまい、三十分ほど遅刻してしまっている。
今回の任務には扉間様もいるとのことで、この任務説明にも彼は同席しているはず。自分にも他人にも厳しい人だ。恐らく、遅刻した私のことを待っている今もイライラしているに違いない。想像しただけで恐怖を感じる。

火影室の入り口の前に立ち、一度深呼吸をする。走ってきたのでその呼吸を整えたというよりは、室内で待ち構えているであろう彼に怒られるのではないかという緊張を少しでも鎮めるためであった。感知能力に長けた扉間様のことだ。すでに私が火影室の入り口の前にいることなど、手に取るようにわかっているはず。気後れしながらも扉の取っ手に手を伸ばすと、私の手がそこに届く前に扉が開いた。あれ?ここって自動だったっけ?

「いつまでもそんな所にいないでさっさと入ってこい。時間の無駄だろう」
「扉間様…、すみません」
「貴様に集合時間は伝えていたはずだが?」
「ちょっと任務が長引いてしまいまして」
「言い訳するな」

目の前にいる千手扉間という人は、私に「すみません」以外の言葉は言わせてくれないようだ。
口に出すと怖いので心の中で言い訳させてもらうが、確かに遅刻したのは私だ。しかし、その前に任務という仕事をしていたのだ。決して寝坊しただとか、この約束を忘れていたとかではない。大体、この約束と直前の任務を詰めて入れたのはそっちだろう。もう少し幅を持たせて任務を入れてほしい。怖いから言わないけれど。

「任務だからしょうがないじゃないの。どうせ余裕を持たせないで任務を入れたんでしょ?全てあんたのミスよ」
「なんだと?」

桃華さんは私の気持ちを全て代弁してくれた。これは非常にありがたい。それはそうとこの任務、桃華さんも一緒なのか。柱間様はいつもと同じ様子で、目の前で口論する二人を仲裁している。その横にはマダラもいて、なんとなく彼も不機嫌そうだ。

「おはようございます」
「……遅ぇんだよ」
「すみません、でも任務が」
「さっき聞いた」

マダラは私をチラリと見ると、静かに文句を言った。その眉間にはシワが刻まれている。
思えばこの部屋の中には五人の人間がいて、その内の二人の機嫌が悪いなんて結構殺伐とした光景だ。しかも原因は私の遅刻。やはり言い訳などせずに黙って申し訳なさそうにしておこう。

この時代の人達は厳格な人が多いと感じる。生きてきた環境が私達とはまるで違うので当たり前かもしれないが、まさか任務が長引いて遅れたことを咎められるとは。元の時代であれば、任務で遅れたのなら仕方がないと逆に労られることすらあるのだが。

「桃華、貴様と口論していることすら時間の無駄だ。任務の説明をするぞ」

扉間様は桃華さんを強い目つきで見た後、任務内容の説明をし始める。桃華さんはその言葉を聞いてぴくりと眉を動かしたが、特に何も言わずに彼の話を聞いている。

「三日後の夜、砂隠れの里の大名がこちらの大名と宴席を設ける。その護衛をワシとマダラ、桃華、名前の四人で行うことになった」
「砂隠れだと?」
「こちらの大名が砂の大名と古くからの友人らしくてな。砂とは同盟関係はまだないが、これをきっかけに良くも悪くも進展するかもしれん」

良い意味での進展の場合、木ノ葉と砂が大名をきっかけに関係が急接近し同盟関係に持ち込める可能性がある。それとは逆の場合、今回の宴席を利用されてこちらに仕掛けてくる可能性がある。恐らくパワーバランスから考えれば、木ノ葉に攻めてくることは、ほぼないと考えていいのだが念には念をということらしい。

「大名を守るための精鋭部隊ぞ!」

柱間様が張り切ってそう言うと、マダラが面倒臭そうに彼を見た。私が精鋭の中に含まれてもいいのかはよくわからないが、確かに他のメンバーを見れば精鋭中の精鋭。足手まといにならないように頑張らなければ。

「当日貴様らはこれを着ろ」

そう言って扉間様から私と桃華さんへ渡されたのは、艶やかな着物だった。大名の護衛で着物?よりによって戦闘の可能性がゼロではない任務で、なぜこのような動きづらそうな服を着なければならないのか。そう疑問に思って扉間様に尋ねた。

「あのー、なんでこんなに動きづらい格好しなきゃいけないんですか?大名の護衛ですよね?いつもの忍服の方がいいと思いますけど」
「護衛は貴様らの力など借りんでもワシとマダラでどうにでもなる」
「ええ!?じゃあ私達なんのために…」
「貴様らは飾りだ」

飾り?何それ、酷くないか。横目で桃華さんを見ると物凄く不服そうだ。彼女がこんな態度をするのも無理はない。私だって同じような気持ちである。

「まあ、今のは扉間の言葉が過ぎたが、大名が女を同席させろと注文をつけてきてな。すまんが、引き受けては貰えんか?」
「柱間様がそう仰るのでしたら構いません。それよりもさっきの扉間の言い方が癇に障って」

桃華さんは扉間様に睨みをきかせながら柱間様の話に同意した。
考えてみれば一般人が大名のそばについて世話をするよりも、くのいちの私達がその役割を担った方が護衛する上でも都合がいいだろう。扉間様には「貴様らが護衛するまでもない」などと、やや気に障る言い方をされたがしょうがない。

「名前、またそんな派手なもん着るのかよ」

マダラは小馬鹿にしたように私を見下ろして声を掛けてくる。両手に抱えた着物に視線を落としてみると、確かにこの前の着物よりは落ち着いてはいるが、それでもやはり私には着慣れない色だ。

「着られるなよ、着物に」
「……化粧と髪でどうにでもなりますもん」
「へえ、それは楽しみだ」

恨めしそうに呟くと、マダラは小馬鹿にしたようにそう答えた。
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