やさしいせかい

□*looking for the idol*
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「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 腕を弛めてハルを見れば、路傍の照明の光の中で耳の先まで茹で上がっていた。

 その上気して熱い頬を両の掌に包み、彼の前に跪く。

「ハル。お願いだ、俺を望んで。αの俺を丸ごと信じてくれたなら、他の誰かでなく俺にΩのお前を守らせて。お前の項を、俺に許して」

「…え、と…樹。それじゃまるでプロポーズだよ………?」

「うん。プロポーズしてるんだよ、俺」

 大きな黒い目をいっそう円くして、ハルが小さく息を呑む。

「男の子のお前が対極の二次性別と折り合えてないことは解ってる。でも、お前がΩ性の自分を生きると決めてるなら、伴侶としてお前のそばに寄り添うことを俺に許してほしいんだ」

「…………………折り合いなんて、いつつくか解んないよ?」

「うん。でもいつかはつくよ。その時は…」

 どこか呆然とした顔で俺を見つめるハルに、自然と柔らかく頬が弛んだ。

「お前のその白い項に、他の誰のものより美しく愛の証を刻んであげる」

 だからまず、俺をお前の恋人にして?

 小首を傾げてそう言うと、ハルは小さく吹き出した。

「順番が逆だよ……!」

「ふふ。個性的だろう?」

 ぱちんとウィンクすれば、「まったくね」と言って喉の奥で笑う。

「そっか…僕、あなたを愛してるんだ……」

「そうさ。だからこの先、独占欲っていう恋が芽生えてくれると嬉しいな」

「あなたは僕だけのものって?」

「そう!」

 今でもあなたは僕にとって色々と特別な人なんだけどな、なんて言いながら、ハルは柔らかく目を眇めた。それから、少し大きく息をする。

 はむ、と。

 不意討ちの接吻けは、小さくやんわりと俺の唇を食んで離れていった。

 ………え。

「…へたくそでごめん。いまはこれがせいいっぱい……」

「わお……」

 跪いたまま、俺は思わず乙女みたいに両手で口許を押さえてしまった。

「ハルからキスしてくれるなんて…」

「あなたを見おろすシチュエーションなんて滅多にないでしょ。それに僕、一方的に彼女役になる気はないからね」

 男前な宣言でOKをくれた俺の可愛い小悪魔は、もうこれ以上はムリ! ってくらいの赤い顔をそっぽに向ける。…ああ、お前って子は本当に………!

「もちろんだよ、ハル! 最高だ!!」

 …喜びのあまりキスの雨を降らせた俺が、しつこい!! とハルを怒らせたのは……まあ、ちょっとしたご愛嬌だよね。

  ‡  ‡  ‡

『見つかっちゃった!』

 地下鉄の駅で、そうキャプションをつけた写真をアップする。

『小悪魔くんは正真正銘プライベートの仲好しだよ。カフェの彼女、タイミングみてくれてありがとう! 鬼ごっこに参加してくれたみんなもね! 今日のデートはこれでお終い。これから小悪魔くんを送って帰ります』

 コメントを投稿すれば、間を置かずに次々反応が返ってきた。『お疲れ様』『小悪魔なんだ!www』『またの機会を待ってます!』……楽しんでもらえたみたいで何よりだ、うん。

「……えーと、疲れた?」

 行きよりもずっと混み合った車内。ドアの近くに囲ったハルが、黙り込んでる俺の袖を軽く引いて下がり眉をいっそう下げた。

 明るい車内ってことで、俺はサングラスをかけてる。気を遣ってか、ハルは話しかけるのも控えてくれてるみたいだ。でも、俺の口数が減ったのは人目のせいじゃない。

「大丈夫。ちょっと緊張しててね」

「緊張?」

「うん。マスターとマダムに何て言って挨拶したらいいかなって」

「………え」

 ちょっとだけサングラスを下げてぱちんとウィンクすると、愛しい小悪魔のまろい頬は立ち上るように赤く染まった。

 −−−番契約と結婚を視野に入れた暖人くんとのお付き合いを認めて下さい! と頭を下げた俺にご両親が目を剥いたのは、この一時間と少し後の話だ。





END

2017/11/14
 


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