空ハ青ク澄ンデ

□第二十八話
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眼下で行われる喧騒を、俺は唯見ていた。
≪天人五衰≫は、一体何を目論んでいる?
一体誰を巻き込み、何を目的に動いている?

判らない事だらけだ。知っている「原作」を過ぎただけで此の有様とは、自分の事ながら笑えて来る。

「ッ」

幾ら体力がついてきたと云えど、代償が「体力」である限り限界はある。
『細雪』と『白鯨』の同時使用に依(よ)る代償で疲労感が襲い始めた。未だ軽いのが救いか。

「万全じゃ、無ェしな……」

此処最近で異能力を連続して使い過ぎている上に、十分な休息を取れずに使用している為何時もより疲弊速度が早い。
出来れば短期決戦に持ち込みたいが、其の場合介入しなければならない。
傍観者の立場じゃ無理だ、如何なるかは彼ら任せになる。

其の時だった。
一際大きな音と共に、中島敦の様に真白な男が≪猟犬≫の少女と共に空中に投げ出された。

「!」

見覚えの無い男。恐らく、彼が「シグマ」なのだろう。
其れ以外に≪猟犬≫が敵対する男が見付からない。
事態が動いた。然う思った刹那、中島敦が飛び出したのが見えた。
シグマを掴んで下の出っ張りに着地する。

「出たな」

俺はシグマの周囲を見た。そして、見付けた。
来ると思ったんだ、ドストエフスキーなら「然うする」と思ったから。

「『白鯨』、俺を外に出してくれ」

『白鯨』が頼みを聞いて、俺を外に出した。同時に『細雪』を解除し、『汚れつちまつた悲しみに』を使う。
此処からでは声も聞こえないから、更に異能力を使う。

「『金色夜叉』」

呼んだ瞬間に、夜叉が「彼」に攻撃を仕掛ける。勿論、避けられたけれど。

「Long time no see.(久し振り)」

此方を向いた其の目に、俺は笑いかけた。俺を認識しているのか、していないのか。佳く判らないが、あの目のままだった。

「『白鯨』、もう近付いて善いよ」

『白鯨』が動くと、俺の目の前に彼が居た。夜叉が俺を守る様に控えている。

「忘れた?俺の貌(カオ)」
「……否、忘れる筈が有りません。夜宵様」

表情が一変する。其のホーソーンに、俺は複雑な気分になった。何度でも慣れない感覚だ、嘗ての仲間が今は敵だなんて。

「来ると思ったよ、ホーソーン」
「然うですか」

偽物の金髪が風に吹かれて揺れる。ホーソーンは複雑そうな表情をした。

「貴方は、綺麗な黒髪でした」
「然うだね。でも、其れを棄ててでもアンタを止めようと思った。アンタは俺が捕まえて帰るよ、是は組合団長の所有物としての役目だ」

言葉と共に意図を組んだ夜叉が動く。夜叉とホーソーンが戦っている間に振り向いた。

「久し振り、中島敦さん。そして、初めましてシグマさん。「俺の記憶に無い」天空カジノの支配人」
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