空ハ青ク澄ンデ
□第二十四話
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「……すみません、其の秘書って……」
明らかに怪訝(おか)しい記憶を正す為に、震える声で訊いた。
如何して?「あの場」で拘束されていたのは「ゴーゴリ以外の政治家」だった筈だ。
軍警は俺の様子にも気付かずに、悲しげとも悔しげとも取れる様子で答えた。
「妙な格好はしていたが、立派な秘書だ。然う、まるで道化師(ピエロ)の様な」
また心臓がドクンと大きく音を立てる。煩い。
元々はあの男が引き起こした事態だった筈だ。
何故あの男が死んでいる?
何故あの男が人質に掏(す)り替わっている?
もう何が何だか判らない。
「犯人、は……頭巾を、していた筈です」
混乱する頭で俺の覚えている慥(たし)かな記憶を口に出す。
然う、あの時慥かにあの男が「首謀者として」其の場に居て……白頭巾の奴等は間違いなく探偵社では無かった。
だって、俺が背後に庇っていたのは探偵社だったのだから。
其れなのに、軍警はまたもや怪訝しな事を云った。
「犯人が全員頭巾を脱いだ。其れで武装探偵社の仕業だと発覚した」
有り得ない!!
俺は耳を押さえた。
聞きたくない!
違う、怪訝(おか)しい。
否……俺の記憶が怪訝しいのか?
違う!俺は慥(たし)かにあの時探偵社を庇っていた!
だって、ゴーゴリによって俺はあの地下にある部屋に閉じ込められたのだから!
明らかに辻褄の合わない記憶に気分が悪い。如何やら此の場において記憶が合わないのは俺だけの様だ。誰も疑いもしない。
俺が怪訝しいのか?
あれが夢だとでも?
――――違う。俺は知っている。然う、「知っている」んだ。
「……成程」
異能力でも使われたのか。俺以外の記憶を弄られる位の、能力を。
そして嵌められた。「正しい記憶」を持つのは、此の場で俺だけだ。
矢張り、情報が欲しい。正確な情報が。
其の為に必要な異能力は判ってる。だから、落ち着かなくては。
雑念は要らない。俺の遣るべき事は唯一つ。
「おい……?」
軍警が黙り込んだ俺に声をかける。これでも、同年代の中では割と感情の操縦(コントロール)が上手い方だと思う。
深呼吸して落ち着いた頃、小さな声で呟いた。
「『怒りの葡萄』」
緋色の本から葡萄の蔦があっという間に生える。彼等の腕に全ての蔦が絡んだ時、俺はもう一つ紺色の本から異能力を発動させた。
「『モルグ街の黒猫』」
一瞬の内に、俺と共に居た軍警は全て姿を消していた。
邪魔者は此れで居なくなった。もう俺を異能力者だと教える者は居ない。
「『独歩吟客 携帯』『蒲団』」