空ハ青ク澄ンデ

□第二十二話
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チラと横目で、何故か唯一解放されている男を見た。其の男は、司法省の「斗南」とか名乗った何時かの怪しい男だった。

「へえ、アンタの仲間?其の人」
「不正解。秘書として世話にはなったけどね」

俺を見て目を見開いた斗南は低い声を出した。心底怒っている様な顔で。

「貴様も天人五衰か」
「……情報有難う、斗南先生だっけ?ふーん、アンタ等「天人五衰(てんにんのごすい)」って名乗ってんのか」

斗南が口を開いた御蔭で、彼に訊く手間が省けた。新組織「天人五衰」。何らかの形でドストエフスキーと関わりのある組織。
斗南は俺と道化師を交互に見る。そして、驚いた様に俺に云った。

「貴様は、天人五衰じゃないのか」
「残念、そんな悪趣味な奴等に乗る訳無いだろ。人殺しとか出来るか」

はあ、と溜息を吐いた。何なんだ此の男、俺こそアンタは「天人五衰」だと思ってたよ。武装探偵社の敵だから。
其れが捕まってると云う事は、裏切られたのだろうか。
如何でも善いが。
視線を興味の無くなった男から道化師に戻して口を開く。

「御大層な嫌がらせを考え付いたもんだな。名前は?今度は名乗ってくれるよなァ?」

苛立ち紛れに俺が云うと、道化師は笑った。とても穏やかな表情で。

「勿論、でも後でね。今は君を迎えに来た者とでも名乗っておこう!」
「迎えじゃねェだろ、俺が出向いてんじゃねーか」
「あ、ホントだ。大正解!」

何だろう此の男は。時折気が抜ける。大正解!じゃねェだろうが。
斗南も然う思ったのか、微妙な顔をしている。

「で?ドストエフスキーと何の関係が有るんだよ」
「ドス君は我々の一員だ」
「は!?」

彼奴、所属していたのは一つの組織だけじゃなかったのか……!
そういや、別に一人一つの組織に属さなきゃならないなんて規則は無い。勝手に思い込んでいただけで、二組織に属していても可笑しくない。

ドストエフスキーは「罪とは思考、罪とは呼吸」と原作で云っていた。
其の意味を、今実感した。其の通りだ、「考える」からこそ、「目の前の事実」を見落とした。

「おや、意外と云う顔だね!」
「ドストエフスキーの言葉の意味を、今更実感したんだよ。確かに「思考は罪」だな」

迂闊だった。天人五衰も、死の家の鼠も敵対している訳ではない。寧ろ、手を組んでも可笑しくない組織だろう。
目の前の白い道化師を睨み付け、背後で待機しているだろう探偵社を如何やって守るか考えていた。
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