空ハ青ク澄ンデ
□第二十一話
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あれから、暫く経った。俺の中に深く、深く植え付けられた恐怖は消える事が無い。
其れでも笑う事位は出来る様になった。
「福沢さん、お帰りなさい」
今日は福沢さんが探偵社が表彰されるとかでスーツを着ていた。
色々邪魔にならない様にする為、俺は社長室で本を読んで待機していた。
「凄い格好」
「可笑しいか?」
「いいえ。お似合いだと思います」
笑いながら本を閉じる。普段が和服だからか、違和感は感じるが似合っていると思う。
髪も縛ってるし。
「俺の女装よりはね」
「……」
社長が俺から目を逸らした。此方見ろよ、と思ったが真顔で見つめられても如何返して善いか分からないので此れで善いと思う。
フィッツジェラルドからのドレス贈り付けは無くなったが、何かしら贈りたい欲は旺盛な様で。
此の間は髪飾りだった。女物の。
「此の間の、贈り物は如何した?」
「モンゴメリとか、泉鏡花にあげた……。趣味は、まあ、悪くないから」
好い加減に女物を送って来るのは止めてほしい。切実に。
フィッツジェラルドの奇行に悩みながら、俺は俯いた。
次何か贈られたら如何するかな……。
「取り敢えず、そろそろ止めてくんねェかなァ……」
困り切った顔で、俺が然う呟くと。
社長は無言で何も聞かなかった振りをした。
其の後、社長が俺を連れて外出。
俺の服として、幾つか和服を購ってくれた。
「福沢さん、何で急に服を?」
「貴兄は……その、男物の服を果たして持っているのかと疑問に思ってな」
「あー……、一応、二着くらいは」
「少ない」
社長の目がカッと見開いた。あ、うん。俺も然う思う。でも、大体フィッツジェラルドが買ってくるのは女物なんだよ。
「ついつい購ってしまったんだ」だと。
如何しようも無いとつくづく思う。
「困った保護者様だから仕方ないさ」
「自分で購わないのか?」
社長が不思議そうに聞く。――――自分で購うって。
そりゃ無理だ。契約する前なら、好き放題だったけどな。
俺は困った様に笑って社長に云った。
「其れ、俺の金じゃねェし。フィッツジェラルドは今稼ぎ時。使う金は最小限に抑えたい時だからな」
「成程」
俺は購って貰ったばかりの和服を見ながら、今は遠い金色を思い浮かべた。
女物しか送って来ない男だけど、其れでも俺を忘れてはいないと云う事が嬉しかった。
「其れにさ、フィッツジェラルドはもう二度と俺を裏切らないって云っていた。其の証明だ」