空ハ青ク澄ンデ

□第十八話
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何だか、落ち着く様な懐かしい匂いがして。
俺は薄らと目を開けた。

「夜宵!」

柔らかな布団が敷かれた寝台の上で、俺はフィッツジェラルドに手を握られて眠っていた様だ。

「……フィッツ、ジェラルド……」
「目が覚めたか!善かった……!」

夢じゃない。俺は、フィッツジェラルドの元に戻れた。帰ってきた。
ドストエフスキーとの賭けは、俺の勝ちだ。

其処まで理解した時、俺は握られた手を振り払ってフィッツジェラルドの頬を一発叩いた。
パァン、と善い音がしてフィッツジェラルドは頬を押さえた。

「何故……」

俺はゆっくりと起き上がってフィッツジェラルドを睨み付けた。
俺に水を持ってきたオルコットが怯えて俺とフィッツジェラルドを交互に見ていた。

「何故、俺を迎えに来なかった!!俺はアンタをずっと待ってた!信じて待ってたのに!!」

今迄不安だった思いを吐き出す様に、フィッツジェラルドへぶつけた。
フィッツジェラルドの表情が動揺で歪んで、言葉に詰まった様に口を開く。

「其れは」

でも、其の先は云わせない。全部知ってるから。云い訳なんか聞きたく無い。

「奥さん(ゼルダ)に見捨てられたと思ったから!?白鯨が落ちて望みが絶たれたと思ったから!?俺が裏切ったと思ったから!?自分が一人だと思ったから!?自分の国が崩れ落ちたから!?

アンタ、俺が今迄何してたか判る!?武装探偵社に捕虜同然に連れて行かれて、拘束されて、本を奪われて!!!
かと思ったらドストエフスキーに狙われるし、アンタは迎えに来ない、俺を裏切るって唆されるし!!

俺の周りは、アンタが居ないと敵だらけなんだよ!!」

フィッツジェラルドの目が大きく見開かれた。其の青い空の様な瞳に、泣きそうな俺の顔が浮かんでいた。

「何で、何で俺を信じなかった!?俺はアンタを裏切らない、然う契約しただろうが!!」

怒りなのか、安心したからなのか。
俺は涙が溢れていた。歪む視界に、フィッツジェラルドが見えないから乱暴に涙を拭ってフィッツジェラルドを睨んだ。

「悪かった」

フィッツジェラルドは俺の頭にポン、と手を置いた。
俺がフィッツジェラルドを見上げると、フィッツジェラルドは自分が怪我でもした様な痛そうな顔をしていた。
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