空ハ青ク澄ンデ

□第十六話
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ドストエフスキーが部屋を去って数十分。
早くも俺は、嫌気が差していた。

「ヒキキ!強者は弱者へ施す義務があるんだろ?」

下品に笑う下衆の声。「本物」のウイルス異能力者、プシュキンの声だ。
溜息を吐くと、驚く声が聞こえた。

「……申し訳ありません、夜宵様。不快な音楽でしたか?」

俺の声は、通信機を通してゴンチャロフに聞こえていたのだ。
真逆、ゴンチャロフに繋がっているとは。思いもしなかった事態に驚いて寝台(ベッド)から落ちた。

「夜宵様?」
「夜宵?如何しました?」

別々の声が聞こえる。ゴンチャロフとドストエフスキーの通信機は繋がっていないから当たり前だが。

「オイ……ドストエフスキー……。アンタ、ゴンチャロフに繋がっているとは云わなかっただろ!!」
「云って如何なるとも思いませんでしたので」
「驚いて寝台から落ちたわ!!」

俺が然う怒鳴ると、二人共通信機の向こうで笑っていた。此の主従……何時か同じ目に遭わせてやる。

「まあ……そう、怒らないで……くっ」
「笑いを抑えてから云ってくれないかな」

苛々としながら、俺はドストエフスキーに訊いた。是も、俺の介入による「歪み」だ。

「で、此の儘繋げるのか?其れじゃ賭けにならん。万が一、探偵社が通信機を奪えばフィッツジェラルドが出て来る前に俺を探すだろう」
「御心配なく」

俺の問いに答えたのはドストエフスキーではなく、ゴンチャロフだった。

「其の前に破壊しますよ。貴方と主様の邪魔をする気は有りませんから」
「……何つーか、流石侍従長……」

気が抜けて、俺は寝台に倒れ込んだ。手に持っている水入りのペットボトルが、射し込んでいる陽の光に反射してキラキラと光った。

「なァ、ゴンチャロフ」
「はい?」
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