空ハ青ク澄ンデ

□第十五話
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「―――――……」

何故だか、目覚めた時に手を伸ばしていた。傍に有る様で、無い。手に入る様で、手に入らない。そんな物を求めて。

其の手を、ドストエフスキーが掴んでいた。少し冷たい手が、俺の手の熱を奪う。
水を差し出した彼は、俺にポツリと呟いた。

「目が……もう、目が覚めないかと思いました」

随分長く寝ていたのだろうか。此の男がそんな下らない事を考える程に。
――――莫迦か。然う云って遣ろうとして、止めた。フッと可笑しくなって笑う。

何度だって、目覚めたくない日があった。何度も何度も、夢の中に居たい日があった。其れでも。

「目は覚めるさ。……嫌でも。空が何時も青い様に」
「成程。貴方の意思に関係なく……。世界は無情ですね」
「だな」

ドストエフスキーの手が俺の髪を弄り始めた。そんなに長くない俺の髪を器用に編んでいく。
未だぼんやりとした頭で、目の前の男の耳にイヤホンが有るのを見て「もう終わりが近いのか」と感じた。

長かった。たった二日だと云うのに、一週間は居た様な気がする。
其れも、今日で終わり。
――――フィッツジェラルド。俺は、アンタを信じてる。だから、アンタを……俺も信じて善いんだよな?

布団を握り締めて、俺は或る決心をした。

「ドストエフスキー、聞いても善いか」
「何です?」

俺は近くにあった本を手に持って、ドストエフスキーの目を真っ直ぐに見つめて……逸らさない様にして訊いた。

「俺は、アンタと共に行動するのか?其れとも、此処でアンタと別れるのか?」

ドストエフスキーは不意を突かれた様に目を見開いていた。そして微笑を浮かべると本を握る手の上から自分の手を重ねた。

「勿論、貴方にはぼくと来て貰います。然うでなければ、最初から潜窟(アジト)の方でゴンチャロフに任せていますよ」

俺は其れを聞いてドストエフスキーに笑いかけた。精一杯、余裕が有るような振りをして。
――――俺は、此の命を賭けた大博打を遣る。

「賭けをしないか。俺と、アンタで」
「……賭け、ですか」
「アンタはポートマフィア幹部「エース」と大(ハイ)&小(ロー)で賭けをした。其れと同じ事だ」

ドストエフスキーは少し考えた後、「私が勝ったら、何をしてくれますか?」と訊いた。
俺の手札の中で、一番大きな物。其れは

「鷹嶋夜宵の名を持ってフィッツジェラルドとの契約を破棄し、フョードル・ドストエフスキーを裏切らないと契約する。
そして、俺が持つ情報を一つ残らずアンタに売ってやる」

俺自身だ。
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