空ハ青ク澄ンデ
□第十三話
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ドストエフスキーと対で作られたような青い中華服に腕を通す。
ドストエフスキーは決して派手好みではないが、青色の中華服は其れだけで目立って見えた。
何処か、フィッツジェラルドが選ぶ服に似ている。
「善くお似合いですよ」
聞こえてきた声に肩を震わせ、振り返る。ドストエフスキーが戻って来ていた。
ドストエフスキーは未だに怯える俺に優しく微笑みながら近付いた。
「貴方には青が善く映える」
「……」
「不満ですか?」
俺が無言を返すと、ドストエフスキーが聞いてきた。俺は此奴の袖を掴みながら、目を見ない様にして口を開いた。
「……否」
「なら良かった。さあ、出掛けましょう」
「待て」
掴んだ袖をくいっと引っ張る。ドストエフスキーの視線が俺に突き刺さっているのを感じながらも必死に無視しようとした。
「太宰さんに、会ったんだろ。何か……何か俺に、云ってなかったか?」
此奴の手が、袖を掴んでいる俺の手を優しく外して両手で包み込んだ。
其の手は少し冷たくて、流石貧血男だなんて少しだけ考えた。
「ええ、貴方がぼくの元に居るのか確認してきました。ぼくの傍を離れるなと云う貴方への伝言を預かっています」
ドストエフスキーの次の言葉を待つ。其れだけじゃ無い筈だ、未だ云う事が有る筈。
だが、幾ら待っても其れ以上ドストエフスキーが何か云う気配は無かった。
「社長は……ッ!!」
其の時、ドストエフスキーの瞳を初めて間近で見た様な気がした。
ドストエフスキーは只微笑んで、俺の言葉の続きを待っていた。
「社長は、俺の事を守った社長は、如何なったんだよ……ッ!?」
其の問いに、答えは無かった。曖昧に笑って、また誤魔化された。
俺の為の荷物をゴンチャロフから受け取って、ドストエフスキーが俺の手を引いた。
地下から出て来ると、青空が広がっていた。