空ハ青ク澄ンデ
□第十二話
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目が覚めた時、何時も以上に躰が重かった。そんな自分に違和感を覚えながら、横を向くと其処には悪夢が有った。
「目が覚めたようですね」
「あ、あ……」
一目で分かる。原作でポートマフィアの少年が彼をこう呼んでいた。
「貧血男」と。
其の通りだ。血の気がなくて、痩せていて。だから……怖い。
恐ろしさのあまり震えてくる。此の男の元にだけは居たくなかったのに、如何して。
「静かに」
もう少しで此の悪夢に絶叫を上げる所だった。目の前の「魔人」は其れを見越して、俺の口を塞いだ。
「ぼくが、怖いですか?」
笑いながらそんな事を聞く「魔人」に俺は反射的に怒鳴り返していた。
「アンタは……ッ!」
頭に浮かぶのは、最後に見た正気を失ったホーソーンの姿。俺と別れる迄は、組合と決別する迄は確りと意思を持った目をしていたのに。
虚ろになって、何もかも忘れて。自分の為に損なわれたミッチェルの汚名を雪ぎ、彼女を助ける為に動いて居た筈なのに……
こんな男に好い様に利用されて。
ホーソーンの最後の言葉を思い出す。
「彼に利用されない事を祈っています」と云っていたあの顔も一緒に。
「アンタは、組合の大事な幹部を勝手に弄(いじく)った!」
涙が堪えきれずに流れていく。あんなホーソーンは見たくなかった。分かっていたのに。
其れでも善いと、思って居た筈なのに。
「大事な幹部?彼の男は彼の事など、如何でも良いと思っているのに?」
「違う!彼の人は、口に出さないだけで部下は見捨てない!」
「……成程」
少し離れた所に居たドストエフスキーが俺の目の前に座った。怖くて震えが止まらなくなる。寒気までして来やがった。
そんな俺とは裏腹に、ドストエフスキーの其の口は薄く弧を描いていた。