空ハ青ク澄ンデ

□第十一話
1ページ/4ページ

あれから、俺は拘束を解かれる代わりに探偵社の異能力者と共に行動していた。
異能力者が付くのは、表向き俺の護衛だが本質は俺の見張りと云った所か。信用がないなあ……。

本も取り上げられて、異能力も使えないのに。
フィッツジェラルドだって、未だ俺を迎えに来る力も持ってないのに。
然う思うと、何時も俺は空を見上げていた。フィッツジェラルドと繋がっていると、信じられるのが此の街の空しか無かったから。

今日の護衛 兼 見張り役が到着した。

「今日は私だ」
「……」

俺は頭を抱えた。選りに選って、社長とは……。考えるだけでも頭が痛い。
原作で見た社長は其れはもう仁徳溢れる優しい御仁だった。

敵でなければ。

「不満か」
「イイエ」

不満とか然う云う問題じゃない。此の人の前でだと、俺は終始肩に力が入っているのだ。
其れは、俺の所有者(マスター)がフィッツジェラルドだからだろう。更に、俺はフィッツジェラルドを裏切らないと契約した。

俺は既に、探偵社へ逃げ込みたいと云う気持ちが失せていた。彼等と共に、此の社長の下で働けたらどんなに幸せか分かっている。
分かっているが、フィッツジェラルドの事を信じているから。

社長と会うと、其れがぐらついてしまう。慈悲深くて、部下に慕われているのを見るとつい契約を忘れそうになってしまう。自分の立場も忘れて。

「私の下が一番安全だと思うが」
「然うですね」

そんな俺の心情を知らない社長の云う通り、探偵社の中なら一番社長の下が安全だろう。太宰治は元ポートマフィアの幹部と云う事もあって周囲から色々な感情が付き纏う。
面倒事は御免だ。

「さて、今日も聞こう。「魔人」とやらの次の一手は何だ?」

社長は毎度、其れを聞いてくる。恐らく、探偵社の社員と横浜の街を守りたいからだろうと思う。正義感に溢れた社長らしい。
でも、俺は其れだけは誤魔化していた。ドストエフスキーの次の一手を、俺は云いたくなかった。

分かっているのに、云いたくない。
俺にとって、今でもフィッツジェラルドは……彼の組合(ギルド)は、大事なモノだった。

黙秘する俺に社長が溜息を吐いた。

「云いたくない理由でも有るのか」

社長の言葉に、下を向いた。屹度、此の儘黙っていれば……俺は何の防衛策もなく、ドストエフスキーの標的になるだろう。
でも……云いたくない。認めたくなかった。

今になって、「彼」を見る事が怖くなった。
以前「敵」であった探偵社に居ると、組合の幹部達にどれだけ自分が大切にされていたかを思い知らされている気がしていたから。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ