空ハ青ク澄ンデ

□第十話
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目が覚めると、俺は体を拘束されて無機質な部屋の寝台(ベッド)に寝かされていた。
結局、俺は武装探偵社に連れ込まれたのか。溜息を吐いて天井を見上げた。
知らない天井で、何だか落ち着かない。

何日経ったのだろう。
オルコットはフィッツジェラルドを見付けただろうか。
ホーソーンはドストエフスキーに利用されてないだろうか。
別れを告げた幹部達は、如何して居るのだろうか。
モンゴメリは大丈夫だろうか。

そんな事を寝起きのぼんやりした頭で考えていると、隣から声がした。

「漸く目が覚めたか」

横を向くと、社長がいた。俺は驚いて暴れた。
てっきり俺の見張りには太宰治が来ると思っていた。何故此の人が。
俺を見下ろす其の目が酷く冷たくて、恐ろしく思えた。可笑しいな。フィッツジェラルドの時でさえ、これ程恐れを感じた事はなかったのに。
最後に見た時は、こんなに恐怖を感じなかったのに。

「混乱している様だな」

社長の一言で俺は冷静さを取り戻した。――――そうだ、俺は何て莫迦な事をしているんだ。

「……莫迦な己に嫌気が差してるだけですよ」

本当、莫迦だ。捕虜でも何にでもしろと云ったのは俺じゃないか。
其の言葉通りにしただけだ。捕虜ではなく客人として扱われるとでも思っていたのか、俺は。
組合団長の所有物の癖に。

落ち着いた俺に、社長は近付いて本を出した。本も取り上げられたなら、俺は異能力が使えない。
平和惚けしたもんだ、と俺は自嘲した。フィッツジェラルドに会う迄はこんな事も無かったのに。
常に警戒して、御人好し幹部の優しさも受け入れられなくて。
自嘲しながら、俺は社長を見上げた。

「其れで、本を取り上げて、無力な俺に何を聞きたいんですか?」
「何を知っている。そして、貴兄は何者か」

聞いてきた内容はフィッツジェラルドと同じ事の筈なのに。社長は俺の正体まで訊ねてきた。
と云う事は。
何時か来るとは思っていたが。然う思いながら口を開いた。

「俺の事を調べたんですね。俺は異能力者ですから、特務課にでも聞いたんですか?
でも、「何も出て来なかった」。名前も年齢も出身地も、両親の名前すら。然うでしょう?」
「……」

社長は沈黙で答えた。沈黙は肯定。本当に俺の事を調べたんだな。フィッツジェラルドは如何でも良さそうだったのに。

「……やっぱ、組合に拾われて正解だったのかもな」
「何?」

小さく呟いた心算でも、社長には聞こえていたらしい。社長が俺を何処か驚いた様に見ていた。

「あの人は、一度も俺の事を聞きませんでした。何を知っている、と貴方と同じ事は聞いたけれど」

フィッツジェラルドの姿を思い出していると、部屋の扉が開いて誰かが入って来た。直ぐに其の「誰か」は分かったけれど。

「……え」

真逆、此の人が来ると思ってなくて目を丸くした。
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