空ハ青ク澄ンデ

□第九話
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二人きりの穏やかな時間の流れる部屋で、俺は寝台(ベッド)近くに置いてあった携帯を手に取った。

此の後の事は良く分かっている。だから、彼等に一言だけでも云いたかった。
携帯で連絡を取った先は

「夜宵様?」

スタインベックの携帯だった。彼は作戦実行組だったから殆ど関わった事は無い。其れでも、俺を少しでも気にかけてくれていた事を知っている。

「スタインベック、其処にトウェイン達が居るんじゃない?」
「其の通りですけど」

矢張り、彼等は「白鯨落とし」の会場から逃走中だったか。
其れを聞いて状況を把握した俺は、彼に一言告げた。

「逃走は中止。此の戦争、組合の負けだ」
「は!?」

後ろから困惑の声が聞こえる。俺は其の声に構う事無く、スタインベックに声をかけた。

「スタインベック、佳く聞いてほしい。此の戦争はフィッツジェラルドの完全敗北だ。「白鯨」は落下しないし、横浜の町は守られる。

武装探偵社の虎人(リカント)と、ポートマフィアの真っ黒な手練れが襲撃に来てね。多分、もう少しすれば決着がつく。

俺は、フィッツジェラルドの所有物だから勝手に動く事は許されない。彼奴が死ぬなら、俺も死ぬよ」
「な……ッ」

畳みかける様に次々喋った所為か、電話の向こうの彼等は戸惑いを隠せないようだった。
そんな彼等に、自然と口角が上がった。

「三人とも、俺を気にかけてくれて有難う。組合は悪役組織と云われるかも知れないけど、俺はアンタ達の優しさを知ってるから。
……組合はフィッツジェラルドを失って崩壊する。其の後の事は、幹部で話し合って決めなよ」

「ちょ」とか「待って」とか聞こえたけど、俺は其れを無視して通話を切った。
メルヴィルはそんな俺を見ていたが、何も云わなかった。

「さて、メルヴィルさん。彼等に云った通り、時間が其れ程ありません。操舵室に行きましょう」
「は?」
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