空ハ青ク澄ンデ
□第八話
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次に目が覚めた時、俺の隣にはメルヴィルが居た。
ボンヤリする頭で何となくメルヴィルに手を伸ばすと、俺が起きた事に気付いたメルヴィルが来た。
「目が覚めたか」
「……はい」
無意識に、俺はホーソーンとミッチェルを求めていた。組合で、初めて俺を見返り無しに守ってくれていた二人を。
「作戦参謀が善く君の世話を焼いていた」
「オルコットが、ですか」
彼女は本当に優しい。こんな組織に居るのに、皆を思い遣って。
フィッツジェラルドに作戦を提出して忙しいだろうに。
「……本当、コレだから組合は」
好きなんだ。俺は声なき声で呟いた。組合は俺にとって優しい人の集まりだ。
思っていたのとは違う。白黒(モノクロ)の世界や画面越しの世界で見ていたのとは違う。
「貴方が居て、オルコットが居ない。フィッツジェラルドも様子を見に来ない。
と云う事は、既に幹部は避難済み。「白鯨落とし」が実行されている最中ですか」
「そうだ」
俺は躰をゆっくりと起こした。鉛どころか寝台(ベッド)と同化してしまったかの様な躰を起こすのは相当苦労した。
「驚かないんですね。俺が知っている事に」
俺が話した事も無い筈の計画を知っているのに、メルヴィルは微塵も驚かなかった。
それどころか、落ち着いた様子で煙草を蒸かせていた。そして、俺の方を向いた。
顔は穏やかなものだったけど、俺には威厳を感じさせた。矢張り、此の男(ヒト)は組合の団長だ、と。
「大方団長が云ったのだろう。御前の情報源に興味はない」
「成程」
其の冷静さこそ、流石元団長だ。冷静で、穏やかで。フィッツジェラルドより慈悲深い貴方なら。此の人が今も組合の団長であったなら、屹度(きっと)今頃組合は――――……。
一瞬見えた幻想を振り払い、俺は考えた。「白鯨落とし」は既に実行されている。
なら、俺は白鯨から脱出するべきなのか……?
然う考えた時、フィッツジェラルドの指示を仰ごうと俺はメルヴィルに尋ねた。
「メルヴィルさん。団長から俺に関する指示は有りましたか?」
「否」
「分かりました。なら、俺は白鯨で貴方と一緒に朽ちましょう」
初めてメルヴィルの目が見開かれた。其の瞳の中に映る俺は困った様な、仕方ないと云う様な顔で笑っていた。
「……脱出するかと思っていたが」
「俺は団長の所有物です。所有物が勝手に団長から離れちゃいけないし。
其れに、脱出不可能です。ポートマフィアが輸送船を襲撃しました」