空ハ青ク澄ンデ

□第七話
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「契約更新だと?」

身構えるフィッツジェラルドに笑いながら「契約破棄する心算は無いから安心しろよ」と伝える。
其れから指を二本立てて彼に突き出した。

「新たに条件を二つ追加するだけだ。アンタが、信用出来ると思ったからな。
一つ、此の戦争に関わる心算は無いと云ったけど、撤回する。必要なら俺を使え。ただし、俺は絶対に手を汚さない。誰かの命を奪ったりしないし誰も傷付けはしない。
一つ、鷹嶋夜宵はフランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドを裏切らない。だから、アンタも俺を裏切るな」

此の二つの条件を云った直後、フィッツジェラルドは「交渉成立だ」と答えた。とても満足そうに。

「君の力を借りる様な事にはならないだろうがな」
「然うである事を願ってるよ」

フッと息を吐く。然う云うアンタだからこその条件だ。若し、此れが森鷗外なら俺は同じ条件を出さなかったかも知れない。

さて、ホーソーンが先刻(さっき)白鯨を降りた筈だから……此の後、フィッツジェラルドは「彼」に会うのだろう。

そう考えると、「此の後の事」を考えた俺は何気なく云った。

「もう暫く……寝てて良いか?」
「勿論。動ける様になったら俺の部屋に来ると良い」

フィッツジェラルドは子供を寝かしつける様に俺の頭を撫でて優しい声で然う云った。

「俺、白鯨の中とか知らないんだけど……」
「嗚呼、然うだったな。雑用係にでも案内するよう言いつけよう」

フィッツジェラルドは然う云って、俺の頬に接吻した。

「君の目が覚めて、本当に良かった」
「心配かけて悪かった、フィッツジェラルド」

俺の謝罪に笑みを一つ寄越して、フィッツジェラルドは部屋を出た。
部屋の周りには、俺を傷付けず、俺の存在を隠す為の部下達数名しか居ない。

是なら、誤魔化せる。然う思った俺は、ホーソーンが返してくれた本を撫でた。
是を使えば、また暫く眠った侭かもしれないな。
其の時のフィッツジェラルドの反応を思い浮かべて笑ってしまった。

そして、本に向かって其の「異能力名」を呟いた。

「『――――――』」

本の表紙に、異能力名が浮かぶ。そして、一瞬で俺の周りの景色が変わった。
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