空ハ青ク澄ンデ
□第五話
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「暫く留守にする」
然う云って、フィッツジェラルドが共にいた拠点の船を出る事になった。
「……上が出るのか。珍しいな、アンタが動くなんて」
「俺だって動く時は動く。夜宵は此処で待っていろ、此処が一番安全だからな。勿論、護衛は用意する」
外国式の挨拶、頬に接吻(キス)を一つしてフィッツジェラルドが出て行った。
護衛はフィッツジェラルドと入れ替わるように来た。
「御久し振りですわね、夜宵様」
「御久し振りです」
ナサニエル・ホーソーンとマーガレット・ミッチェルだった。
其の時点で何か胸騒ぎの様な物を感じたが、其れが何故なのか俺には分からなかった。
兎に角、俺は二人と其の部下に守られながら過ごしていた。
退屈かと思われた拠点生活は、フィッツジェラルドが財力に物を言わせて揃えた大量の遊戯(ゲェム)で案外快適だった。
そして、今朝着いた本国からの荷物を運ぶとかで忙しい二人と其の部下の迷惑にならないよう俺は部屋で過ごしていた。
一人で居ると色々考える。久し振りの、一人だ。全くこうなるとは思って居なかった頃を思い出す。さて、是から如何なるのか。
――――待て。
其の瞬間、俺は寝台(ベッド)から跳ね起きた。
俺は、俺は今「何処」に居る!?
何が「此処が一番安全」だ!!一等危険じゃねえか、馬鹿野郎!
服も部屋着の儘、鞄を引っ掴んで靴も履かずに飛び出した。擦れ違う部下達が驚いた様に目を見開いて俺を見ていたが、そんな事如何でも良かった。
慌てて甲板へ向かうと、二人は何時もの様に喧嘩していた。
「あら?如何なさいましたの、夜宵様」
「珍しいですね」
驚く二人に、俺は駆け寄った。慌てた様子で靴も履かずに飛び出してきた俺に二人は驚いた様だった。
「ポートマフィアから、手紙……!手紙は!?」
「は?」
二人は目を丸くして顔を見合わせた。そして、「そんな物は見ていない」と云った。
如何やら間に合ったらしい。未だ時間は有る。
「『天衣無縫』」
久し振りに異能力を使って一瞬だけの未来を見る。思った通り、手紙を渡す部下の姿が見えた。
「あの……」
来た。俺は冷や汗が流れるのが分かった。
其の部下を見ると、矢張り片手に手紙を持っている。
幹部二人が、俺と手紙を交互に見た。