空ハ青ク澄ンデ

□第二話
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あれから話を聞いていると、「武装探偵社に新入りが入った様だ」と云う噂が流れる様になっていた。

其れも然うか、あれ程迄に白く美しい子供だ。其れに、彼の朝焼けの様な瞳は俺でも綺麗だと思った。噂になるのも無理はない。

だからと云って、俺が動く訳でもない。
何時も空が青いのと同じ様に、今日も無銭飲食をしようとしていた時だった。

「よう」

「奴」が現れた。逃げたい。物凄く逃げたい。他人の振りをして無視して逃げたい。
と云うか、しまった。此処はあの組織の縄張りだったのか。

俺が悩んでいるのに慣れたらしい相手が溜息を吐いた。そして俺の顔を掴んで強引に自分の方へ向かせた。

「其の俺を見たら避ける癖を止めろっつったよなァ!?」
「知りまふぇん」
「糞生意気な……!まァた無銭飲食する心算だったんだろーが!」
「なんふぇしっふぇんふぇふか、ふふぉーふぁーでふは(何で知ってんですか、偏執狂(ストーカー)ですか)」

……以前、云った「とある筋」とは彼の事である。
ポートマフィア幹部「中原中也」。此方としては森鷗外がエリス嬢と買い物するくらいに目立つので彼との接触を滅茶苦茶避けたい。
が、彼は然うも行かないらしい。俺を見付けては飯を奢ると云う善い人なんだか危ない人なんだか善く分からない行動をしてくる。

「誰が偏執狂(ストーカー)だ此の野郎。ほら来い、奢って遣るから」

俺よりも背が小さい彼は、男前な発言をして俺の顔から手を放した。
逃げるから、と云う理由で俺の腕を掴んで町を進んでいく。案外目立たないのが意外だ。

そして着いた先は俺が気後れして入りたくない外観の料理処(レストラン)だった。
大体連れて行ってくれるのはポートマフィア傘下の店だ。

「好きな物頼め」
「毎度云いますけど無いです、敢えて云うなら逃亡で」
「却下だ、諦めろ」

何時もの様に此の人は俺の分の注文も勝手に決める。そして何故か其の料理が好みだったりする。何でだ。

「で?此処最近会わなかったじゃねえか。何か有ったか?」
「貴方の任務が有ったからじゃないんですか、気の所為だと思います」
「そうかよ」

然う云いながらも俺は考えていた。「中島敦」が武装探偵社に入った。なら、何処まで進んだのか把握するべきだ。今後の為にも。

だが、此の「中原中也」に情報を聞き出す真似はあまりしたくない。森鷗外に色々突っ込まれたくない。
何より、あの男程では無いが森鷗外が怖い。ポートマフィアへ行く事になるのは御免だった。
然し、ポートマフィア幹部の情報程、正確で信頼出来る物は早々無い。

「其方こそ、大きな仕事をしたのでは」

中島敦が入社した場合、即座にポートマフィアが動く。だから、俺は迷った末にカマをかけた。

「は?」
「軍警の居る交番を爆破するなど、何とも目立つ事をする物だと」

彼は黙った。そして溜息を吐いた。

「どっからそんな情報得て来るんだよ……」
「新聞に取り上げられてますよ、御存知無いのですか」
「マジか」

本当の事だが、嘘です。知っているのは、俺が個人的に知っていただけの事。
……と云う事は、既に某病弱僕さんが動いている。
金髪美女が仕掛けた後か、否か……。
確信が欲しくて、もう少しだけ踏み込む事にした。

「其れと、次のお相手は武装探偵社ですか?偉く派手な事をしていましたね」
「……何の話だ」
「黒い蜥蜴が大勢窓から落とされたとか」

其処で彼は動いた。顔を顰めて俺にナイフを向けてくる。
俺は踏み込み過ぎた事を知った。冷や汗が流れる。不味い、消されるか?
何時も持っている鞄の中に手を添える。鞄の中身はあの本だ。
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