DEAD APPLE

□Even in laughter the heart is sorrowful.
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今のは、間違いなく「静」だった。
死んだ筈の、静だった。
静が居た証拠を探す様に手を伸ばして空を彷徨った。

「静、静……ッ」

何も云って無い。
何も伝えて無い。
何時から『創造』ではなく、静だったのか。
何も聞けて無い。

何も、話して無い。

幾ら探っても現れない静に、俺は思いっきり叫んだ。

「答えろよォォォォォ!」

もう一度会いたかった。静はとっくの昔に死んでる。会えた事自体、奇跡に等しい。
判ってる。判ってるけれど、二度目の別れがこんなに呆気無い物だなんて認めたくなかった。

時が経って、声も段々と薄れてきていた。姿も朧気(おぼろげ)になっていた。
だからこそ、今度は二度と忘れない様にしたかったのに。

「鷹嶋」

俺に声をかけようとする中島敦を太宰治は静かに止めた。

「静の、莫迦野郎ぉ……ッ!」

腹の底から叫んだ。涙が止まらない。
躰が熱い。何時もなら人の視線が気になって叫べもしない筈なのに、箍(タガ)が外れた俺には視線なんて気にもならなかった。

「何が心配症だ!病気だったのも云わなかった癖に!!休みの間に何時の間にか死んでた癖に!話したい事が山程有ったのに、明日が有るって後回しにしちまったのに!!アンタの葬式にも顔出さなかったんだぞ俺は!!」

頭の中が真っ白になって、其の後は何を云ったのか覚えていない。
散々泣いて、散々叫んで。
喉も痛くなって涙も枯れたかなと思った時、躰が一気に怠くなった。
もう指一本動かせない。躰が鉄筋みたいに重い。

「鷹嶋君、御疲れ様」

太宰治の声がして、ゆっくりと視界が暗く黒くなっていく。
無情なもので、夢の中ですら静が二度と現れる事は無かった。
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