空ハ青ク澄ンデ

□第二十七話
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「確かにな」とフィッツジェラルドは笑った。
天空カジノは恐らく、天人五衰に依(よ)って生み出された物に違いない。
ドストエフスキーの策略の拠点になるだろう。

「フィッツジェラルド、天空カジノについて教えてくれ。記憶に無い俺には判らない」
「判った」

天空カジノ。其れは、驚きの場所だった。
十三年前、大戦による戦勝国の秘密会議で設立された治外法権の場所。
其れ以外の情報が一切無い。カジノの支配者が「シグマ」と云う人物である事だけ。

「シグマ……?」
「如何した?」

俺は其の言葉に引っ掛かった。本名不明の男で、賭博(ギャンブル)に関係していて、文字を名前に持った男を、俺は知っている。

男の名は、「A(エース)」。本名不詳の、ポートマフィア五大幹部。ドストエフスキーに淘汰された、男。
ガタガタと震えているのが判った。

「夜宵!?」
「だ、い、」
「大丈夫の筈が無い!」

ドストエフスキーに関係する男には相応しい名前だ。文字の名前、本名不明だなんて。

「天空カジノに、行って来る。治外法権なら、≪猟犬≫が俺を捕らえる事は出来ない」
「其の顔色で許すと思うか!」
「許すよ……。多分ね」

俺はフィッツジェラルドの目を見た。フィッツジェラルドは焦っていて、其れでも俺の話を遮ろうとはしなかった。

「天空カジノは、天人五衰の拠点の一つだと見て善い。俺の記憶に無い事と、「シグマ」の名前が証拠だ」

フィッツジェラルドは其の証拠に頷いた。頷いたけれど、俺を天空カジノに遣る様な雰囲気では無かった。

「なァ、フィッツジェラルド。俺な、ドストエフスキーが他人を信用するとは思えねェんだ」

あの男の恐怖は是で何度目だろう。一度目はあの男が俺を狙っていると知った時。
二度目はあの男が俺を捕らえた時。
三度目は桂正作を見て、其の裏で何が行われているのか察した時。
でも、其の全てで思う。

「≪死の家の鼠≫達を庇おうともせず、切り捨てた。ドストエフスキーの知り合いだろうゴーゴリも策の為なら死なせてしまった。田山花袋の始末も自分で付けようとした。
そんな男が、「シグマ」を放っておくかな?俺の所有者だって知ってる筈のフィッツジェラルドまで始末しようとしたあの男が、「シグマ」を生かしておくのかな?」

然うとは、思えない。思えないから、俺は殺されると怯えていた。ずっと。然うだと思わなかったから、あの男との約束に半信半疑だった。
俺の言葉に目を見開いて、其れから綺麗な青い瞳を伏せた。

「確かに、≪鼠≫が信用するとは思えんな」
「天空カジノに何を置いているのか判らない。其処が本当に拠点なのかも判らない。でも、其の儘にするとは絶対に思えない」

だから、行く。其処に、ホーソーンが現れると思っているから。
俺に出来るのは、ホーソーンを止める事だけ。俺の声に反応して、ホーソーンは動きを止める。標的を俺に変える。
若(も)し、未だドストエフスキーがホーソーンを解放する気が無いのなら十分時間稼ぎになる。
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