空ハ青ク澄ンデ

□第二十七話
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「私は――――慥かに、其の情報を得ています」

彼女は然う、口にした。彼女が俺やフィッツジェラルドに嘘を吐いた事は無い。
俺は真剣になった。あのとんでもない奴等を……出し抜く方法が有るのだろうかと。

「ですが、夜宵様。貴方は、≪猟犬≫に勝てません」
「其れは予測していた」
「いいえ」

何時に無く強い否定だった。オルコットは真剣に俺を見ている。俺が勝てないと「何か」によって確信している。

「根拠は?」
「≪猟犬≫の構成員は五名です。其の内一人が、ポートマフィアに潜入捜査をしていた「立原道造」です」

オルコットの言葉は、衝撃的だった。政府内に俺の情報を知る者は無いと、然う確信していた。確実な情報は無いと。

甘かった。ポートマフィアだと思っていた立原道造が≪猟犬≫なら、俺の情報はダダ漏れだ。
≪猟犬≫が俺の事を知っている可能性は高くなる。知られているのなら、対策は万全だ。

「慥(たし)かに、勝てないな」
「≪猟犬≫を掻い潜るのは、フィッツジェラルド様でも容易ではありません」
「判ってる。≪猟犬≫を見た、アレは無理だ。芥川龍之介の攻撃を避ける以上に難しい」

俺の行動範囲が狭まった。≪猟犬≫は俺を拘束したがるだろう。俺は一番面倒な「共犯者」だ。異能力者の中でも最悪と云って善い。
そして、軍警ならば……拷問が有っても怪訝(おか)しくは無い。捕まったなら、幾らフィッツジェラルドでも俺を見捨てざるを得ない。

「オルコット、アンタに云っとく。万が一、俺が≪猟犬≫に捕まったらフィッツジェラルドに俺を切り捨てる様に云ってくれ」

死ぬ心算は無い。危険な所に首を突っ込めば即人生終了(ゲームオーバー)。そんな事判り切っている。
判り切っているけれど、賭けに出ざるを得ない。だから、最悪の事態を想定しなければならない。

「≪猟犬≫に交渉は通じない。場合によっては俺を殺すだろう。「所有物」如きに煩わされちゃいけない」

所有物が、所有者の邪魔をするなど有ってはならない。
だから、覚悟だけはしておかないといけない。信じているからこそ、切り捨てられる覚悟を。

「いいえ、お断りします。私は貴方が捕まったのなら、貴方を連れ出す策を考えます。何度でも、幾つでも」

オルコットの強い言葉に、俺は目を見開いた。其れから、オルコットは仲間思いだって事を思い出した。

「有難う、オルコット」

オルコットに笑って礼を云う。何時だって、一番に俺の事を気に掛けてくれるのは組合の人々なのだから。

「夜宵、彼女の足取りが追えたぞ。彼女は今、天空カジノだ」
「天空、カジノ……?」

何だそりゃと俺は首を傾げた。フィッツジェラルドもオルコットも目を見開いて俺を見た。
まるで、有り得ないものを見る目で。だから俺は確信した。常識が引っ繰り返るのなんて、「あれ」以外に考えられないから。

「フィッツジェラルド。其の天空カジノ、俺の記憶には全く無い。地理情報として、有名な場所はアンタと契約する前に幾らか頭に叩き込んだ。其の記憶に、一切引っかかる物が無い」

フィッツジェラルドは少し考え込んで、人払いをした。オルコットでさえも下がらせる。
考えている事は、恐らく同じだ。

「つまり、夜宵。君の記憶に無いのならば、アレは」
「「本」が使われて出現した物だ。「本」による改変は俺に一切通じない。第一考えてみろよ、天空カジノが有ったら「白鯨落とし」が出来る訳無いだろ」
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