空ハ青ク澄ンデ

□第二十七話
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俺は「フィッツジェラルドの息子」の役割を与えられた「所有物」。
所有者を必ず、此の勝負に勝たせなくてはならない。

「フィッツジェラルド、情報が欲しい。先刻も云った通り、情報が足りなさ過ぎる」

然う云って、俺は息を吐いた。考えなくては。
武装探偵社は身動きが儘ならない。ポートマフィアは武装探偵社に協力しているので、十中八九目を付けられている。

彼等と「親しくて」、「未だ自由に動ける」のは誰だ?
親しい人間でなければ確実に味方にはならない。自由に動けなければ、あの≪猟犬≫の目を掻い潜るのは難しい。

「モンゴメリ……、坂口安吾、辺りか」

モンゴメリは中島敦に恋愛感情に近い物を抱いている。いや、恋愛感情かも知れない。
何方にせよ、彼女が武装探偵社の敵に回る事は有り得ない。
そして、坂口安吾。彼は「織田作之助」の友だ。

目線を下に向けて、掌を見つめる。何時だったか、俺は織田作之助に会った気がする。
其の時、俺と彼は約束をした。

「アンタの友達、信じるよ」

坂口安吾は「織田作之助」を未だに友と呼ぶ。太宰治へのあらゆる便宜も、織田作之助への贖罪だ。

「フィッツジェラルド、直ぐにモンゴメリと異能特務課の「坂口安吾」の情報を集めてくれ。最後の目撃情報や、行動を」
「『神の目』ならば容易い事だ」

フィッツジェラルドが、二人の情報を得る為に部屋を出た。≪猟犬≫に接触する事だけは避けたい。
ドストエフスキーの行動を考える。現在ドストエフスキーは投獄されている。脱出は不可能だ。
だが、ホーソーンを此方に向かわせた。そして、ホーソーンに「俺を遠ざけるよう」命令した。

「ホーソーンを、押さえるか」

俺に出来る事は、其れだけの様な気がした。ドストエフスキーならば、他の駒も用意している事だろう。意味は無いかも知れない。

其れでも、彼は。俺へ「一番最初に」居場所をくれた彼を、ドストエフスキーの駒にしておく心算は無い。
ついでに、所有者サマに牙も剥いてくれた事だし。

「次のドストエフスキーの手を読むしか無いな。次の場所が何処なのか」
「夜宵様」

俺の好きな甘い匂いがする。ココアを持って、オルコットが来た。

「オルコット、怪我は?無事か?」
「大丈夫ですよ、お約束しましたから」

ふわりと笑って、オルコットはココアを差し出す。其れを飲みながら、俺はオルコットを見上げた。

「オルコット、一つ聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「オルコットは、フィッツジェラルド以外の「団長」を欲しがらない。なら此の勝負、必ず勝つ為の策を考えた筈だ」

俺の問いに、オルコットは予想していた様に全く驚かなかった。ただ、目を伏せた。

「貴方は、如何しても動くのですか?」
「動くよ。探偵社に対する嫌がらせが過ぎる。此の儘じゃ勝てない」
「フィッツジェラルド様は、恐らく望まれません。其れでも?」

オルコットの言葉に、動揺する。俺は所有物に過ぎない。所有者の命令ならば、俺は動く事が出来ない。
だからこそ、俺は。口角が上がっていく。俺はフィッツジェラルドを選んだ。

中原中也でも無く、福沢諭吉でも無く、ドストエフスキーでも無い。
他の誰でも無く、俺はフィッツジェラルドを選んだんだ。「状況」を云い訳にする心算なんて疾うに無い。

「命令が無い限りは。俺を止めたきゃ、命令しろ。フィッツジェラルドには、其れを許してるんだ」

本当に拙いと思うのなら、フィッツジェラルドは止める。俺の幹部入りを却下した様に。
だが、今回は止めなかった。俺が関わる事こそ、勝率を上げると判って居るからだ。

「オルコット、モンゴメリと坂口安吾の情報をフィッツジェラルドに頼んだ。アンタからは、≪猟犬≫の情報が欲しい。作戦には≪猟犬≫の情報が必須、ならアンタは≪猟犬≫を知っている」

ドストエフスキーに踊らされた、あの凶暴な軍警共を知らねばならない。
俺が本当に奴等から逃げる事が不可能なのか、慥(たし)かめなければならない。
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