空ハ青ク澄ンデ
□第二十二話
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「却説(さて)」
彼は少し焦った様な表情を浮かべた。俺を見つめて、最初に会った時の様な顔をしていた。
「君は此処で退場だ、此の先は君に見せたくない」
「約束の十八時迄、未だ時間は有る。何を急いでいる?」
「其れは、教えられないよ」
彼が身構えたのを見て、俺は直ぐに携帯を持った。
本ではなく、携帯を取り出した事に道化師は目を見開いて俺を見ていた。
「アンタが俺に血を見せまいとするのは勝手だ。俺だって、血は苦手だし吐き気がする。でも、其れだけじゃ此の世界は生き残れない。然うだろ?」
携帯を弄って、とある場所へと電話を掛ける。拡声器(スピーカー)状態にしているから、部屋に音が響く。
「如何した、夜宵。君からかけてくるのは珍しいな。約束の時間迄、後数分は有るぞ」
聞こえて来たのは俺の保護者の声。
そう、遠く離れて居ない筈のフィッツジェラルドの声だった。
フィッツジェラルドと俺の約束の時間は午後六時。丁度、限界刻限(タイムリミット)の時間だった。
「フィッツジェラルド、正直に答えてくれ。俺は今、探偵社の世話になっている。其れは組合にとって「借り」になるか?」
真剣さを帯びた、何処か強張った声と今更な俺の問いに、フィッツジェラルドも何か感じた様だった。
「嗚呼、俺にとって「最大の借り」だ」
「なら、借りは返さないといけねェよなァ?」
「其の通りだ。貸しは作っておいて損はないが、借りは早急に返したい物だ」
フィッツジェラルドの答えは、俺が望む通りの物だった。
だったら、と俺はフィッツジェラルドに提案した。
いや、希望した。
「此の世界で最大の莫迦な方法」を。
「俺に組合幹部「職人(フェロークラフト)」の地位をくれ。其れを以て、俺は今日此の時から組合の一員になる!」
綺麗な儘じゃ居られない。目の前の道化師の非道さに勝ちたいならば、俺も同じ所まで堕ちなくては。
――――太宰治に出来て、江戸川乱歩に出来ない事が有るのは、此の街に巣食う暗部を見て来たか如何かなのだから。
「本気か、夜宵」
フィッツジェラルドの声が強張っている。止めろと云いそうな雰囲気で、怒っているのは善く判った。
其れでも、俺は止める心算は無かった。
「今、目の前に或る男が居る。其奴(ソイツ)は探偵社に向けて人質を取り、残虐な方法で殺すと刻限まで付けて脅した。
其処に俺が居る。――――此の事態を止められる可能性のある、強大な力を持った異能力者が居る。
《武装探偵社》は、人を決して見捨てない。目の前で殺しが行われるのを決して許しはしない。
フィッツジェラルド、アンタなら如何する?」
電話の向こうのフィッツジェラルドが難しい顔をしている事は容易に想像出来た。
組織の《長》としては、俺を利用する事が正しい判断だと分かっている筈だ。
――――そして、其れはフィッツジェラルドが決して使わない手段だった事も。