空ハ青ク澄ンデ

□第十六話
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「君は……」

長い息を吐き出す様に云われた。まるで、呆れたとでも云う様に。
其の後、少し沈黙が有った。
其れは気まずい物ではなくて、心が穏やかに落ち着いて行く様な沈黙だった。

「ドストエフスキーに、聞いてみてよ。解毒薬、未だ有るのか」
「分かった」

暫くして、又ドストエフスキーの声が聞こえてきた。

「解毒薬の予備は、勿論有ります。此の事態を予想していましたから」
「だと思った。でも、其れ一つなんだろ?次に薬が消滅すれば、もう俺は助からない。だから、俺が心配だって云ったんだよな?」

答え合わせをする様に訊ねると、ドストエフスキーは不快そうに歯軋りした。

「解っていて、壊したんですか……!」
「御免。俺は組合団長「フィッツジェラルド」の所有物。フィッツジェラルドを裏切らないと契約したんだ。だから、此の賭けには絶対に勝たなきゃいけないんだ」

でも、と俺は呟いた。そして、俺は空を見上げた。少しだけ怖い、と思う。泣きたくなる。其れでも、今の俺には此れ位しか出来ない。

ねえ、織田作。アンタも、然うだったのかな。

「代わりに、アンタが選んで善いよ。俺を殺すか、生かすか。其の薬を壊して、俺を殺しても善い」

もう後がない。死ぬかもしれないと分かっていて、アンタに全てを託す。
其れしか、俺には出来ない。
アンタが俺にかけてくれた情が、偽りでないと思い知ったから。

だから。

「Do you kill me?(俺を殺すの?)」

然う訊いた。
俺は後悔なんかしない。例え、其れでドストエフスキーに殺されても。
何度でも、フィッツジェラルドを選ぶだろう。

「――――否(いいえ)」

ドストエフスキーの力強い声が、ぼんやりとしていた俺の意識を引き戻した。

「否、ぼくは貴方を殺さない。諦める心算は有りません。此処までは予想の範囲内でした。ただ、ぼくに貴方の生死を委ねるとは思いませんでしたが」

ドストエフスキーは、フッと溜息を吐いて一言云った。

「No.I won't forgive you die.(いいえ、貴方が死ぬのは許しません)」
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