空ハ青ク澄ンデ

□第六話
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グダグダと説明するより、実際に見せた方が早いか。
唐突な俺の告白を受け容れられないフィッツジェラルドを見ながらそう思った。
「論より証拠」と云う。俺は深呼吸をしてホーソーンが返してくれた本を見せながら呟いた。
見せる異能力は直ぐに決められた。

「白鯨(モビーディック)」

本の表紙に「白鯨」の名前が浮かび上がり、俺の隣には小さな白い鯨がいた。
此れは、先々代団長メルヴィルの異能力だ。
そして、今居る場所も白鯨。メルヴィルの物である筈がない。正真正銘、俺の異能力だった。

「こ、れは……。報告にあった異能力とは違う……!」
「其れが、異能力『創造』。知っている異能力なら俺は何であろうと使える。連続して幾つかの異能力を使うと体力の消耗が激しいけど」

鯨を撫でた後、異能力を解除して未だ目を見開いた儘呆然としているフィッツジェラルドを見据えた。

「其れでも、アンタは俺を使わないと云ってくれるのか?」

フィッツジェラルドは難しい顔をしていた。考え込んでいる。
俺はだろうな、と溜息を吐いた。即答は有り得ない事を知っていた。

「使わない」

やっぱ使うよな、と諦めようとしていたのに。
今度は俺が驚いてフィッツジェラルドを見た。

「アンタ……本気か?俺程の戦力を、使わないなんて。ポートマフィアなら脅してでも利用するだろうに」
「そんな貧乏人染みた事はしない。確かに、君も知っての通り部下が居なくなった事で戦力が足りない」
「じゃあ!何で俺を使わないなんて言えるんだよ!?」

俺が叫ぶと、フィッツジェラルドは優しく笑っていた。漫画やアニメじゃ見た事もない様な、家族に向ける様な慈愛に満ちた顔だった。

「約束を破るのは嫌いでね」
「……アンタ、ホントに、莫迦じゃないのか」

然う云いながらも俺はフィッツジェラルドに自然と笑いかけていた。
此の物騒な世界の中で、漸く平和を見付けた気がした。

「莫迦とは心外だな」
「普通、条件だったとしても如何にか説得しようとするだろ……」

其れなのにアンタは。俺は声を上げて笑った。
同時に、覚悟を決めた。

「フィッツジェラルド、契約更新しないか?」
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