空ハ青ク澄ンデ

□第六話
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「あの時……、森鷗外の手紙が届いただろ?」
「ええ」

深呼吸をして、あの時を思い出す。俺にとってはつい最近の出来事を。
話を聞いて、如何判断するかはホーソーンが決めるだろう。俺に出来るのは、過ぎた事を話す事だけだ。

「手紙が来たら、梶井が来る。其れは分かっていた。だから、アンタとミッチェルを連れて船を離れた。彼奴の爆弾は、「ポートマフィアの襲撃の合図」だから」
「合図……」

ボンヤリと繰り返すホーソーンに頷いて、俺は話を続けた。

「合図が有れば、次の襲撃準備が始まる。森鷗外は恐ろしく頭が切れる。残酷な迄に。
残った者達を、非常用避難路で爆発させる。然うすれば、残りは幹部と数人の配下だけ。
其の程度なら、怪我を負った芥川でも襲撃可能だ。『羅生門』なら、広範囲で残った敵でも殲滅出来る。

俺が知っていたとしても、『羅生門』に対抗出来る程の速さは持ち合わせていない。どんな異能力を持っていても、非常用避難路に向かった時点で、アンタもミッチェルも部下達も助ける手段は無くなっていた」

俺の話を聞いて、ホーソーンは少しだけ後悔した様な顔をした。

「だから、貴方は……」
「云っただろ。全滅したくなきゃ、非常用避難路は通るなって」

ホーソーンは何も云わなかった。ただ、「もう一つ聞きたい事が有ります」と云った。

「彼は……非常用避難路でミッチェルと私を襲った彼は深手でした。貴方は、彼の欲しい物が何か御存知ですか?」

俺は其の言葉に目を伏せた。ホーソーンが不思議に思うのも無理はない、か。あの傷で出て来るのが可笑しいよな、普通に考えりゃ。

「……師の一言だ。弱いと否定され続けた男が、師に認められたいと足掻いている。欲しいのは師の「強くなった」の一言だろう」
「成程」

ホーソーンは俺の方へと手を伸ばした。これから組合を退く男だ、何をするのかと身構えていたが……
ホーソーンは俺の頭を撫でた。子供の頭を撫でる様に。
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