空ハ青ク澄ンデ

□第六話
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ホーソーンの答えを聞いて、俺は深呼吸をした。ミッチェルを重傷にしたのは俺だ。ホーソーンは其れを絶対に忘れないだろう。
其れを指示した「フィッツジェラルド」ですら痛烈に批判する位だ。

「何から聞きたい?」
「貴方の異能力を」

訊いてくるとは思ったが、真っ先に俺の異能力か。ホーソーンはもう少し遠回しに聞いてくると思ったが、意外と単刀直入に聞いてくる。

「能力名『創造』」
「『創造』?」
「其れ以外は「世間話」の範囲外だ」

ホーソーンは少し考えていた。其れから、俺に一冊の本を見せた。

「此れは、「道標(タイガービートル)」が示すと云うフィッツジェラルド様が探している「本」ですか?」

其の本は、俺が持っていたあの矢鱈装丁の立派な真っ白い小説だった。
俺は首を振った。其れは「此の世界に存在していなかった筈の物」だ。
フィッツジェラルドの欲しがる、本物の人虎が示す本である筈がない。

「其れは俺の本だ。俺にしか扱えない。俺以外には「唯の白紙小説」だ」
「成程。此れがなければ異能力『創造』は使えない、と」
「其の通りだ」

ホーソーンは「失礼」と断って俺の本を開いた。パラパラと捲っていたが、全て白紙なのを確かめると俺に本を返した。

「ミッチェルは貴方を気にかけていた。其れなのに、貴方は彼女を見捨てて逃げ出した」

矢張り然う云われるよな。少しだけ胸の奥が痛むのを感じながら、俺はホーソーンに云った。

「俺はアンタ達と違って喧嘩も乱暴も一回もやった事がない。そんな平和惚けした奴が異能力者だったとしても、「非戦闘員」である事に変わりはないだろ。嘘は吐いていない。
それに俺が森鷗外を恐れているのは分かるだろう、其れは……

俺が、組合に……フィッツジェラルドに購われる前、ポートマフィアの幹部と知り合いだったからだ。
俺はポートマフィアに行く心算は無い。あんな所で、異能力者だなんて知られたら俺は手を汚す事になる。誰かの命を背負える程、俺は強くない。誰かの命を無慈悲に奪える程、冷血漢に俺は成れない。
森鷗外に、異能力者だと知られるのが怖かった」

あの時折ゾッとする程非情な森鷗外を思い出して、体が震える。俺の震えに気付いたホーソーンが俺の手を握った。
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